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土手道、教師、疾走(2024/05/18)

 土手道を歩いて眼科へ行った。本当は先週行くはずだったけれど、体調を崩して行けなかった。
 今回は娘と二人で歩いた。学校の検査で随分視力が落ちたので、新しい眼鏡の処方箋をもらうのである。
 眼科まで歩くと三十分かかる。自転車で行くとか云い出すかと思ったが、別段反発せずについて来た。自転車は、屋根のない駐車スペースにカバーを掛けて置いているものだから、一度出すと仕舞うのが面倒でいけない。

 土手道を歩きながら「昔、金八先生がこういう道を歩いてたんだよ」と教えてやった。
「何それ?」と娘が言った。古いドラマなので、子供が知らないのは当然だ。
「金八先生はな……」と説明しようと思ったら、自分も金八先生のことなどほとんど知らないと気が付いた。全体、オープニング部分ぐらいしか見た覚えがない。
「こういう道を歩く先生のドラマなんだよ。それで、人という字は支え合いって言うのさ。それは嘘なんだけどな」
「面白くなさそう」
「そうだねぇ」

 帰りに妻と合流し、ショッピングセンターで娘の眼鏡を買った。
 歩き回って随分疲れたので、晩はスーパー銭湯へ行った。やっぱり大きな風呂に浸かるのは気分がいい。
 大いにさっぱりした心持ちで、会計を済ませて車に乗ったら、財布がないと気が付いた。
「あれ」
「何?」
「財布がない」
「財布? 家に忘れて来たんじゃないの?」
「そんなことは……あ!」
「何?」
「きっとあそこだ、座敷に置きっぱなしだ!」
 駐車場から受付まで風のような速さで駆けた。まだこんな速さで走れるものかと、自分で感心した。

 受付でスタッフ女子に「すみません、財布を……」まで言ったら、女子が二人で「あ」と顔を見合わせた。
 それでどうやら届けられているらしいとわかって安堵した。
「これですか?」
「それです」
「お名前は?」
「百裕です」
「正解です。中身、確認してくださいね」
 中を見ると二千円しか入っていなかったが、これは元々そうなので、誰かに盗まれたわけではない。確認しながら何だか恥ずかしくなって、「どうもありがとう」とだけ言って足早に退店した。
 当分、あの店へは行かないことにした。

よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。