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愛色のお菓子

「ただいま帰りました!」
「うん、お帰りなさい。今日も1日お疲れ様だったね」

福永せんせのお帰りなさいが、今日も身に染みる。
今日は年末に向けて、また諸々捌いてきたから尚更だ。

「ありがとうございます…外寒かった、リモートにするんでした……」
「もう、だから『今日は家じゃないのかい?』って聞いたのに」

鼻もこんなに赤くして、と苦笑される。
頬を包む福永せんせの手が、温かくて心地いい。

「年末は少し気温上がるって聞いてたのになぁ……」
「気温が上がっても、冬は冬だからねぇ。…ほら、早く上着脱いで、手洗いうがいしておいで」

はーい、と返事をしてすぐさまダウンジャケットをハンガーにかける。
洗面所に行けば去年使い方を教えた電気ヒーターが準備されていて、彼の思いやりを感じたり。

「ヒーターありがとうございました…暖かかったです!」
そう言って戻れば、ちょっと得意げな笑顔の福永せんせ。

「冬はどうしたって寒くなるからね。…そういえば、今日はお土産買ってきたのかい?」

ローテーブルに自然と置いていた、お土産。
手洗いうがいしてる間に気づいたのかな、目敏い人だ。

「はい!今日はジンジャーブレッド買ってきました。駅の洋菓子店で、ちょっとお安くなってたんです」

「ジンジャー?……ああ、このクッキーかぁ!」

クリスマスの飾りにもあったねぇ、と福永せんせ。
女の子やクリスマスツリーの形のものを、袋ごしにしげしげと見つめている。

「クリスマス向けで作ったものの余りを詰め合わせたそうです。その…『愛情を高める、魔法のクッキー』ってキャッチコピーで」

「なるほどね…あれ、僕もしかして今おねだりされてる?」
「へっ!? あ、や、えと、その……」

「……なんてね。照れちゃって、可愛らしいなぁ」

彼はときどき、いたずらっ子になる。
こうして意地悪なことを言ったり、驚かされたり。
つくづく、振り回されっぱなしだ。

「でも、これは一理あるかもしれないねぇ。ほら、ジンジャー…生姜って、体を温かくしてくれるだろう?」

「身体が温まると、心もふわっと温まる感じがするものねぇ。それを『愛情を高める』って表現するとこ、何だかロマンチックだなぁ」

「あ、なるほど…言われればそんな感じしますねぇ」

照れと納得と、色んな感情が混じりつつ、何とかお返事。
と、福永せんせが「よし」とつぶやく。

「ねえ、今日の食後のデザート、これにしようか!」
「…お!いいですねぇ。じゃあ晩ご飯サクッと作らなんと!」

そうと決まれば、と2人でキッチンへ向かう。
晩ご飯後の、まったりぬくぬくとした時間を楽しみに。

でも、福永せんせは気づいているだろうか。

「美味しくてあたたまる愛のお菓子、一緒に食べるのが楽しみだなぁ」

そんな風に無邪気に微笑むあなたを見るだけで、お菓子の力なんてなくたって、ますます貴方への愛おしさが大きく、深くなっていくということを。

「……あ、食いしん坊だなぁなんて、思わないでおくれよ?」
「思いませんよ。私だって、楽しみですから」

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