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仕事旅日記

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前職の仕事で訪れた日本各地での体験や旅情を、思い出しながらテキストにしたためています。
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#ショートショート

外房線

千葉駅周辺はかつて住んでいた街ということもあって、若干の土地勘がある。 しかし、駅構内となるとあまり馴染みがない。特に県の内陸部へ向かうホームは上がった事すらなかった。 この日、初めて外房線に乗った。 ぼくは、初めて乗る電車ではできるだけ眠らないようにしている。 かと言って、到着までする事もない。 仕事を始めたばかりの頃は小さなメモ帳にクロッキーをしていたが、次第にそれもやらなくなり、結局子供のように窓を眺めるだけに落ち着いた。 この日の外房線でも、進行方向左側の車窓を眺めて

単線2両の列車が、霧の山中を行く。 八王子から高崎までを結ぶ八高線は、乗り慣れない乗客にとっては敷居が高い。 まず、乗り場からして変わっている。八王子駅から八高線に乗るには、1、2番ホームまで降り、そこから100メートルほど歩いた先にある一番端の3番ホームまで行く必要がある。 それも1時間に1本という閑線だから、絶対に遅れられない。 他の路線であれば、一本逃しても別の経路を検討する余地があるが、八高線の途中駅へは八高線でしか行けない。 そういう理由で、この路線を使う時は普段以

境界

客先からの帰り道、もう少しで駅に着くというところで、踏切の警報が鳴り始めた。 えっ、と声が出た。事前に調べた時刻表では、まだ電車は来ないはずだ。だが、間違いがあったのかもしれない。ぼくは慌てて走り出した。 閑静な住宅地の最後の角を曲がると、唐突に単線の駅舎が現れる。 面倒なことに、改札が踏切の向こう側にしかないので、一度遮断機が降りてしまうと駅には入れない。 そして、電車は1時間に1本しか止まらない。逃してしまうと、後の予定が大幅に狂ってしまう。 ぼくは息を切らせながら、なん