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なぜ長下肢装具を使うのか②-解剖学的な観点から

前回に続きなぜ脳卒中片麻痺者に対して、長下肢装具を使うのかを解剖学的な観点からまとめてみました。


②解剖学的な理由:大腰筋を使いやすくするため

股関節屈曲の主要な筋に、腸腰筋があります。腸腰筋は大腰筋と腸骨筋で構成されており、大腰筋は腰椎から、腸骨筋は腸骨から、大腿骨の小転子にかけて付着しています1)。

スライド1

腸腰筋も知っているし、股関節を屈曲させるトレーニングも行っているけど、実際立位や歩行の中でどのような役割を果たしているのか、、

学生時代に習った記憶もないので、文献を調べてみました。

腸腰筋の中でも特に大腰筋は、股関節屈曲作用による脚の引き上げや姿勢の前傾を防止する姿勢保持2)、腰椎の前弯を伴い外力に対して安定的な歩行の達成3)など、立位歩行において重要な働きをすることが報告されています。

脳卒中片麻痺者に対しての研究でも、歩行速度に関連する要因として麻痺側の股関節屈曲筋力が挙げられています4)。歩行速度は屋外歩行の可否にも重要な要素であるため、脳卒中片麻痺者においても股関節屈筋、特に大腰筋に介入が必要だと思われます。

では、大腰筋はどのようにトレーニングされるのか

理学療法、脳卒中、股関節と言えば吉尾雅春先生が有名です。

吉尾先生が日本義肢装具学会誌に寄稿された「脳卒中患者の治療用装具はありえるか」5)のなかで、大腰筋が鍛えられるメカニズムが報告されています。

大腰筋は立位で足底に荷重して股関節を伸展すると収縮を得やすい。大腰筋が伸張され、かつ臼蓋から前方に出た大腿骨頭が大腰筋腱を圧迫するからであり荷重によって自動的(automatic)に筋活動を得る。

大腰筋荷重

また

大腰筋は脊柱の抗重力伸展筋でもあり、股関節を中心として関節・筋レベルにおける姿勢保持システムの一部になっている。神経学的には網様体脊髄路を中心とした神経回路の働きとして説明できる。脳卒中の多くは大脳の障害であり、自動的に姿勢調整に関わる網様体脊髄路や前庭脊髄路、あるいは視蓋脊髄路、赤核脊髄路は直接的に大きなダメージを受けていないことが多い。それらに付随する脊髄路が作用できることから、荷重により抗重力筋の活動を期待することができる。

大腰筋の構造や身体における役割から考えると、大腰筋を鍛える上で、立位で足底に荷重しながら大腰筋が伸張されるように股関節を伸展し、活動の中で姿勢を調整するトレーニングが重要だと考えられます。

ではなぜ、あえて長下肢装具を使うのか

脳卒中片麻痺者の歩行では、荷重応答期に膝関節が屈曲するBuckling knee pattern、常時膝屈曲位のStiff knee pattern、初期接地後に膝関節が急に伸展するExtension thrust patternなどが発生するとされています6)。

また、臨床的には歩行時に骨盤の回旋を伴い、股関節が内旋や外旋し、股関節が伸展できない脳卒中片麻痺者も多くいるように感じています。

これらの逸脱歩行は、歩行練習中に足底に荷重しながら大腰筋が伸張されるように股関節を伸展し、姿勢を調整する機会を少なくさせる可能性があります。

そのため、長下肢装具の必要性を評価し、適切に用いることで膝関節の屈曲、股関節や骨盤の回旋を制御しながら、股関節を伸展させる歩行練習を行う。

その継続により、大腰筋機能の向上、立位歩行機能の改善、安定した歩行の達成が可能になると考えられます。


次回は、「神経学的な理由:CPGを駆動させるため」についてまとめていきます。


引用文献

1)河上敬介, 磯貝香(2013). 改定第2版骨格筋の形と触察法: 大峰閣, pp.276-283.

2)金俊東, 他. 長期間トレー ニ ングを継続している高齢アスリートの筋量と歩行能力の特徴. 体力科学. 2001; 50: 149-158.

3)長谷和徳, 他. 大腰筋・脊柱彎曲・二足歩行の生体力学的関係ー計算機趣味レーション研究ー. バイオメカニズム学会誌. 2000; 24(3): 163-167.

4)Nadeau S, et al. Analysis of the clinical factors determining natural and maximal gait speeds in adults with a stroke . Am J Phys Med Rehabili. 1999; 78: 123-130.

5)吉尾雅春, 他. 脳卒中患者の治療用装具はありえるか. 日本義肢装具学会誌. 2012; 28(2): 76-79.

6)大畑浩司(2017). 歩行再建歩行の理解とトレーニング: 三輪書店, pp.58-66.


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