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【短編小説】同じ月を見ている

「空と宇宙の間には何があるんだろう?」

信号待ちをしていると白い息越しに星空が見えて、ふと呟いてしまった。

「さぁ?どうだろうね」

隣にいる友人から興味のない返事が返ってくる。

空っぽな返事を聞いたとき、いつも私は孤独を感じる。

今日は月がきれいだな...

と心の中で思った。

「月がきれいだよ」

そんな言葉に思わず振りかえってしまった。

嬉しくて、私も思った!と心の中で後ろの見ず知らずの彼に伝えた。

信号の色が変わって周りの景色が動き始める。

いつもよりも広く感じる世界。

私の心は少し温かくなった。

「あったかいね」

「いや、寒いでしょ」

あの時のあの言葉は私を寂しさから連れ出してくれる。

「いらっしゃいませ」

閉店間際の喫茶店。

ひとりの男の人がお店に入ってきて、窓際の席に座った。

見覚えのある姿にあの時の気持ちと一緒に言葉が鮮明によみがえる。

"月がきれいだよ"

「ホットコーヒーください」

「かしこまりました」

私は注文を聞いて、

「あの、月がきれいですね」

と言うと彼の視線は窓の外に向く。

「今にも襲いかかってきそうですよね(笑)」

と笑う。

「はい!私もそう思っていました」

「僕もきれいな月だと思ってたんですよ」

黄色く熟れた月が窓いっぱいに姿を覗かせて、彼の輪郭をくっきりと浮かびあがらせていた。

飲み込みそうなほどに。

-end-

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