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短編集⑥

宿題のうた

きみを肯定出来るだけの経験と知識を持ち合わせた言葉になりたかった
誰よりも近くで、きみを抱き締めて居られたら
夏の思い出みたいに朧気な陽炎にはなりたくない
宝箱みたいな夏の絵日記は、先生の前で破り捨てたから
ぼくが言葉になる瞬間、きみはひとりなのだろう
だからぼくはうまれたし、きみもそれを望んだ
夕暮の中、プリズムの様なやさしさを数えたら、きっとこれから世界は目覚める


たのしいうた

良かったね みんなしあわせになれて良かったね ほんとうに良かったね
そう言って涙を流すあの子のしあわせは、何処にあるの
あたしはずっと此処に居るのに 誰も見ようとしないんだ みんな、あたしから目を背けて、なかったことにして、いつしか実体もなくなっちゃって、もう何処にも行けない
そう言って影すら落とさないあの子の救いは、何処にあるの
がらくたに囲まれたチープな箱の中で、彼女は羽を片方失くしたらしい
不完全な彼女は、いつだって不完全なわたしたちを見て、クスクス微笑む 孤独に凪いだ海を泳いで
割れてしまった万華鏡を覗く彼女はたのしい夢を見ているらしい


AM03:47のうた

他人任せにした自身の生を、報いを、呪を、嘘を、一度に課せないで
きみがぼくにしてくれたこと、忘れたことは無いから
ぼくが誰かにとっての「きみ」になれたら
何も壊したくないから、何にも触れられないぼくは愚かでしょうか
いつか世界を救う夢見て、沈黙に耳を傾けて、ぼくなりの「沈黙」という応えを
呼吸をやめたきみのことを咎めるひとは此処には居ないよ
さよならと、またねと、愛してるが意味を持たない世界なら、ひとは哀しくならずに済んだのだろう
だからごめんね、さよなら、愛しているんだ

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