見出し画像

短編集⑩

虹のうた

きみの中身が知りたかった、きみを、構成している成分が、ぼくとおんなじだなんて、ぼくは認めない
かみさまの気紛れに調合したレシピが、情報となり、きみを表す記号になり、また受け継がれてゆくのだろう
月も太陽も見えなくていいから、ぼくを独りにしないで
幼い頃見た夢の続きを、引きちぎって粉々にして、点滴パックに詰めたあの日から、何かが漏れ出して少し痛い気がした 敏感になった痛覚をあやしてきみに捧げたあの煌めきが、いつかこの虹の消失点に変わる様に、色彩を混ぜて薄く尾を引く


流れ星のうた


きみだってほら、ドロドロした身勝手をぼくに当て付ける癖に
ぼくの気紛れを叱らないで
今日はちょっとだけ、昨日よりも寒くて、昨日よりもやさしくないぼくが居て、きみの目線ひとつで傷付いてしまう
誰も見ていない乙女座流星群を指差して、きみは3回願い事を唱えた
哀しいことなんて何ひとつないこの世界で、ぼくのこころが淋しいのはきっと
きみの微熱をあてがって、あと数歩進めなかったぼくの弱さがきみの願いに重なり空に流れた
ぼくの願いがきみだったこと、火葬せずに土に還して


舌先現象のうた

1月の風は冷たくて、吸い込む、陽気なブルース、チリつくレコードの音、朧気な記憶みたいなものばかりをうたにして、ただそこに在るだけのぼく
殺してって、ずっとずっと、叫んでいるのに
断片的な記憶の歪曲は連鎖して
どうして、幸福だった頃の思い出ばかりが悔やまれて、地獄の様な日々は美化されて
最低だね、きみはずっとぼくを見詰めて、たのしんで
哀れまないで ぼくはぼくを慈しめるから きみが何より尊いだなんて、宇宙の記録にも遺されていないよ
伝言ゲームの様な不確実さで誇張されてゆく 移り虚ろってゆく きみはきみの名前すら思い出せずに

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?