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占い師の「コールドリーディング」とは何か

占い師はどうして他人のことが分かるのでしょう。

「生い立ち」「仕事」「人間関係」、そして「本人しか知らない悩み事」など……。


どうして言い当てられるのか?

その答えの一つが、「コールドリーディング(cold reading)」と呼ばれる技術です。



コールドリーディングとは?

コールドリーディングは、事前情報なしにアドリブで相手の情報を言い当てる技術です。

「何が『冷たい(cold)』の?」と気になる方もいるかもしれませんが、「事前に情報を得ていない」ことを「温めていない(warmではない)」となぞらえて「コールド(cold)」と称しているようです。

役者の界隈では、リハーサルなどナシで行う読み合わせなども「cold reading」と呼ぶようですね。
日本語だと「ぶっつけ」とか言いますけど、英語だとどことなくカッコよく聞こえてしまいます……。


さて、事前の情報が無いという前提なので、「相手の発言・反応」「相手の見た目」「状況」などが情報源となります。

そこからどんなことが分かるでしょうか。

たとえば、相手の言葉遣いから出身地の見当が付くことがあります。
また、身なりから仕事や生活水準を推測することができます。
さらに、占い師が口にしたキーワードに対する反応は、そのキーワードとの関連を窺わせることがあります。

こうした情報を組み合わせることで、会話しながら会話の内容以上の情報を引き出せるというわけです。

そして「相談に来ている」ということもまた重大な情報の一つです。

若い人なら恋愛に関する迷いがあるのかもしれません。
中高年の人なら健康や家庭に関する悩みがあるのかもしれません。
強気で悩み事が無さそうで、「なぜここに来たのか?」と全く不思議に思えるような人なら、「その人がここに来たこと」自体に何か推測すべき経緯が隠れていると考えられますね。

こうした想定を念頭に置いて相手から言葉を引き出すことで、相手の「悩みの核心」にズバリと言及できる可能性が高まります。


占いがコールドリーディングであることの証拠は?

私は「全ての占いの的中はコールドリーディングの産物である」と主張するつもりはありません。

しかし少なくとも、複数の自称超能力者に「コールドリーディングが不可能な状況で」占いをさせた研究(Boerenkamp, 1985)では、超能力者の的中率は素人と同程度でしかありませんでした。

これらは限られたサンプルでの単純な結果ですから、「全ての占い師がそうなのか」という普遍的な疑問については何も言えません。

とはいえ、「コールドリーディングを無力化された状態で、確かな再現性と妥当性を持って的中させられる能力は科学的に確認されていない」というのが現状です。


それでもなお、多くの人々は占いに魅了されます。

その理由の一つは占い師たちの話術であると私は思います。

人は多かれ少なかれ、「自分自身について知りたい」「自分のことを理解されたい」という欲求を持っています。

この欲求を上手にくすぐる術を持つ者の前では、相談者自身もまた「占い」の加担者となりうるわけです。

こう考えると「科学的な実験の場では再現が難しい」という事実も含めて納得しやすいのではないでしょうか。


更に言うならば、「そもそも読み取って当てている情報もそれほど多くはなく、実は当たり障りない回答で当たっているように感じさせているだけだ」という主張もあります(Dutto, 1988)。

つまり、「誰にでも当てはまること」「一般的に共通しやすい傾向」を織り交ぜることで「正答率」を水増しすることが出来るというわけです。


あなたが「自分の話していないこと」を10個言い当てられたとして、そのうち3個くらいは「他の情報から推測できること」、2個くらいは「あなたの反応を見ながら調整して言ったこと」、残りの5個くらいは「一般的に当てはまること」……なんてところだったりするかもしれませんよ。

ちなみに、「メンタリスト」と称する人たちが相手について言い当てる(ように見える)のも同様のタネだと指摘されています。


コールドリーディングは特殊な技術?

ここまで、「コールドリーディング」が「占い」における一つの重要な要素であることを述べてきました。

しかし、これは必ずしも「占い師」だけのスキルとは限りません

コールドリーディングに相当するスキルは、マジシャンや心理士や営業マンなど、質や量に違いはあれど様々な分野の人々が身に着けていると考えられます。


ところで、フィクションにおいてもっとも有名なコールドリーディングの使い手を探すなら誰でしょうか?

私はこの人物だと思います。

『医者っぽいタイプの紳士がいる。しかし軍人のような雰囲気がある。ということは、明らかに軍医だ。彼は熱帯から来たばかりだ。彼の顔は黒い。しかしそれは彼の肌の自然の色合いではない。手首は色白のためだ。彼は苦難と病気を体験している。彼のやつれた顔が明白に語っている。彼の左腕は傷ついている。彼はこわばった不自然な方法で固定している。熱帯のどの場所が、ある英国軍医に、こんな苦難と腕の傷を与えうるか。明らかにアフガニスタンだ』全体の思考の連鎖は一秒とかからなかった。その後、僕は君がアフガニスタンから来たと言った。そして君は驚いた

『A Study in Scarlet -緋色の研究-』(https://221b.jp/h/stud-102-3.html)

そう、探偵シャーロック・ホームズです。

ホームズは架空の人物ですが、ホームズ自身の在り方は非常に示唆に富んでいます。

すなわち、「初見の物事から多くの情報を手にするためには、事前に自然科学や人間心理についての豊富な知識が必要となる」ということです。

その上で、知識に偏重するのではなく、「場に即応して関連した知識を引き出す」という柔軟さが必要とされると言えるでしょう。


コールドリーディングとどう付き合うか

最後にいくつか、コールドリーディングに関して私なりの立場を述べておきましょう。


一つは「読まれる側」としての心得

自分を開示すること、自分を言語化してもらうことは非常に心地良いものです。

コールドリーディングというテクニックを知ったからと言って、それを過度に否定したり忌避したりする必要は無いでしょう。

コミュニケーションをより深め、相手との会話を通して自分を深く理解することは、悪いことではないと思います。

ただし、コールドリーディングを使って人を騙したりコントロールしようとする人がいることも覚えておきましょう。

この点において、「コールドリーディングはただの技術であり、超越的な能力や特別に優れた精神とは無関係のものである」という知識は一定の抑止力となりえます。


もう一つは「読む側」としての心得

逆説的ですが、私の知る限りコールドリーディングに長けた人ほど自分の読み取った情報を不必要に開示しません

「私にはあなたのことが分かるのだ」という態度は、その見せ方によっては相手に強烈な不快感と警戒心を植え付けるからです。

会話の中の的確なタイミングで、会話を広げるのに適切な情報を絶妙に言い当てる……というのが理想ですが、これが可能なのはかなりの話術の熟練者でしょう。

少なくとも、あなたがコールドリーディングの技術を身に着けたいと思っているのなら、そのことをあまり吹聴しない方が良いと思われます。

自分の中でひっそりと予測を立てておいて、さりげない流れで「答え合わせ」の情報を聞き出してみる……というのは如何でしょうか?


最後に、「コールドリーディング」は非常に興味深い技術です。

オカルトの文脈だけでなく、人のコミュニケーションの様々な場面で応用の余地があります。

しかし、この技術は再現性が不安定であり、状況依存性が極めて高いことを念頭に置いておきましょう。


まとめ

「コールドリーディング」とは、相手の言葉遣いや見た目、状況などから情報を得て、それを組み合わせて推測する技術のこと。

話術の巧みな占い師は「当たっているかのように感じさせる」技術にも長けている。

コールドリーディングの応用場面は生活上においても多岐に渡る。

コールドリーディングを用いたコミュニケーションには慎重になる必要がある。


参考文献

リチャード・ワイズマン (著), 木村 博江 (翻訳). "超常現象の科学 なぜ人は幽霊が見えるのか." 文芸春秋. 2012/2/11
Boerenkamp, H. G. 1985. “A Study of Paranormal Impressions of Psychics: I. Experimental Design.” European Journal of Parapsychology. https://psycnet.apa.org/record/1986-13290-001.
Dutton, D. L. 1988. “The Cold Reading Technique.” Experientia 44 (4): 326–32.
https://www.vanishingincmagic.com/mentalism/articles/how-does-cold-reading-work/
https://medium.com/@chris.kirsch/cold-reading-how-i-made-others-believe-i-had-psychic-powers-dc184879d264
https://www.masterclass.com/articles/cold-reader-guide
https://en.wikipedia.org/wiki/Cold_reading


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