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これを食べれば認知症は防げる!

などという甘言に惑わされると良いカモですよ。

↑ 今日はこれだけでも覚えて帰って下さい。


「摂取すると認知症を予防できる食品」は、まだ見つかっていません。

しかし、「ほぼ確実に認知症のリスクを高める食事・生活習慣」は存在します。


現状で私たちが科学的になすべきことは、「ただ一つの正しい行いを選ぶこと」ではなく、「世の中に溢れているリスクのうち、避けられるものを避けていく」ことなのですね。

「これを食べれば大丈夫」という声に乗っかることは楽かもしれません。

でも、そこに真実はありません。


「食べてはダメというほどではないけどリスクになるもの」をなるべく把握して、自分に可能な範囲で生活習慣を調整していくのは、認知負荷の高い選択かもしれません。

でも、科学的に誠実な予防法はそれしかありません。


今回は「認知症の確率を下げるために出来ること」の一つを紹介します。

特にエビデンスが積み上がってきている「生活習慣病」について。



血管がボロボロになると脳も壊れていく

前にも書いたように、「認知症」とは、「ゆっくりと認知機能が落ちていく状態」の総称です。

ですから、「認知症」の中にも色々な病気が含まれれることになります。

認知症の原因として一番多いのは、最も有名な認知症である「アルツハイマー病」です。


では、2番目に多い原因疾患をご存知でしょうか?


日本では第2位に「脳血管性認知症」という病名が来ます(Ninomiya, 2020)。

これは簡単に言えば、「大小の脳卒中(脳梗塞・脳出血)を繰り返しながら徐々に認知機能が落ちていく」ようなタイプの認知症です。

「脳卒中」と言うと「突然半身麻痺が出て倒れる」というイメージを持つ方もいるかも知れませんが、それほど明らかな自覚症状が無いこともよくあります。

一つ一つはたとえ小さいものだとしても繰り返す脳梗塞・脳出血によって脳組織が壊れていくことで、どんどん認知機能が低下していきます


高血糖・高血圧・高コレステロール血症は、脳卒中のリスクを高めます

血液中に高濃度の糖分や塩分が存在する状態は、血管壁を老朽化させます。

また、コレステロールが血管に貯まると、血管がデコボコになって狭くなったり、場合によっては剥がれた脂質が血管に詰まることがあります。


こういうわけで、高血糖・高血圧・高コレステロール血症脳血管性認知症の発症率を高めることになります。

しかし、「生活習慣病で認知症リスク高まる」理由は、どうやら脳血管性認知症だけではなさそうなのです。


高血糖・高血圧はアルツハイマー病も増やす?

最近の研究では、生活習慣病はアルツハイマー病などの認知症にも影響することが分かってきました。


糖尿病

糖尿病は「尿に糖が出る」という字を書きますが、その本質は「体の細胞が糖をスムーズに吸収しなくなり、血糖の高い状態が続く」ことです。

なぜ体の細胞が糖を吸収しないかと言えば、血糖を吸収させる指示を出すホルモン(インスリン)が効かなくなっているからです。


ここは本筋からは外れますが、「インスリンが分泌できなくなっている」タイプを「1型糖尿病」「インスリンは出ているけど、体の細胞がインスリンの言うことを聞かなくなっている」タイプを「2型糖尿病」と呼びます。

「生活習慣病」に位置づけられているのは2型糖尿病で、先進国でほとんどの糖尿病患者は2型です。


いくつかのメタアナリシスから、糖尿病脳血管性認知症に限らず認知症のリスクを高めることが指摘されています(Xue, 2019)。

特にアルツハイマー病のリスクが高まる(Pal, 2018)というデータは重要です。

糖尿病がアルツハイマー病を促進する理由はまだ確定していませんが、「脳と身体でのインスリンの機能バランスが崩れることに原因があるのでは?」といった仮説も提示されています(横野, 2010)。


高血圧

高血圧もまたアルツハイマー病のリスクになると言われています(Ninomiya, 2011)。

別の記事で紹介したように、アルツハイマー病の根本的な原因(そして診断の定義)は「アミロイド」と「タウ」という特定のタンパク質の蓄積なので、高血圧(この原因は極端に言えば塩分です)ごときでタンパク質の挙動が変わるものなのか?と疑問に思うのは無理からぬことです。

仮説として、高血圧が循環系の老朽化を引き起こすことで「異常なタンパクを押し流して脳から排出するための機構」が上手く働かなくなるのでは?といったことが言われています。


仕組みについての仮説はどうあれ、「高血圧によってアルツハイマー病発症率が高まる」という事実は大規模な調査でも再現性が認められています。

そして大事なのは、この高血圧によるアルツハイマー病のリスクが、ある程度まで降圧薬によって相殺できるという事実です(Ou, 2020)。

世の中には「血圧が高くても放っておいていい」などとn=1で無責任なことを主張する「アップデートを諦めた医者」もいますが、自分の思い込みの方が科学的なエビデンスよりも大事だと思うようになったら医師免許は返上してほしいものですね。


脂質異常症

世間的には「高コレステロール血症」という名前の方が馴染みがあるかもしれません。

脂質に関連した内科的リスクについては色々な指標値に着目した種々のエビデンスが積み上がってきていまして、単純に「総コレステロールが高いかどうか」だけに注目するべきではない……などといった指摘から、近年の内科界隈では「脂質異常症」という総称を使うようになっています。


ひとまず「脂質異常症」が一番広い概念で、その中の一種として昔ながらの「いわゆる高コレステロール血症」が位置づけられている……という理解でいいと思います。


糖尿病や高血圧と比べると、脂質摂取によるアルツハイマー病リスクのエビデンスは控えめです。

とはいえ、対照群を中高年に絞ったメタアナリシス(Wee, 2023)を見ると、高コレステロールはアルツハイマー病に対して多少のリスク因子にはなっているようです。ただ、高血圧や糖尿病に比べると控えめな効果量ですね。

ともあれ、肥満はそれ自体が様々な疾患のリスクにもなりから、「脂質はあまり悪影響がないので心置きなく取ってオッケー」という話にはなりません。当然のことですが、糖分でも脂肪分でもカロリーの取りすぎは脳と体に悪影響を及ぼします。


脳を守るために出来ること

認知症リスクを下げるには、生活習慣病を予防しましょう。

極めてつまらない結論ですが、これがエビデンスに基づいた科学的な予防法の第一です。

日本人で発症する可能性が特に高い二大認知症疾患であるアルツハイマー病脳血管性認知症を、両方一度に対策できるとしたら、こんなにコスパの良い予防法を見過ごすべきではないと思いませんか?


生活習慣病の一般的な予防として、塩分・糖分・脂肪分の過剰摂取を避けるというのが最も直接的なアプローチです。

さらに、適度な運動によってカロリーを消費することは、糖尿病や脂質異常症の予防に有効です。


また、薬は万能ではありませんが、適切な薬の内服によって認知症のリスクも下げことはエビデンスがあります。

生活習慣病は日頃の運動や食生活で予防することが最も有効ですが、それでも発症してしまった場合にはきちんと薬でコントロールしていく方が良いということです。

変なインフルエンサーに惑わされずきちんと内科で指導と処方を受けることは、寿命を伸ばすだけでなく認知症の予防にもなるということですね。


「科学的な真実」は時にツマラナイものですが、「どこかにある理想の特効薬」を求める人はエビデンスの無い詐欺まがいの健康食品に騙されるリスクを追い続けることになります。

その高額のサプリや健康食品を買う代わりに、魚と野菜たっぷりの美味しい食事を取ったり、ジムで汗を流したりする方が合理的だということです。

ついでに、「認知症を予防する!」みたいな触れ込みで売られているナントカオイルとかナントカ油みたいなのもよく見かけますが、あれもエビデンスは全然ありません。毎日野菜食って毎日歩く方が遥かに効果ありますよ。


というわけで、

アタリマエのことをアタリマエにやるのが、実は一番効果的

というお話でした。



確認テスト

以下Q1~Q3の各文について、誤りがあれば修正しなさい。(解答・解説は下にあります)


Q1: 日本人の認知症原因疾患の第1位は脳血管性認知症である。


Q2: 糖尿病では基本的に血糖値が下がる。


Q3: 高血圧による認知症リスクは降圧薬を使用しても下がらない。


以下に解答と解説があります。




解答・解説


A1: 日本人の認知症原因疾患の第1位はアルツハイマー病である。

 当然ながら第1位はアルツハイマー病です。2位は国や年齢層によってやや異なりますが、日本では脳血管性認知症が2位に来ます。3位はレビー小体病という神経変性疾患で、対象年齢層が少し若い調査ではこれが2位に来ていることもあります。3位以降はいずれも比較的稀な疾患になってくるので、調査の対象群をどうやって集めてどうやって診断したかによってかなり変わってきます。


A2: 糖尿病では基本的に血糖値が上がる。

 基本的な問題なのであまり解説する余地はありませんが、糖尿病とは基本的に血糖が高くなる病気です。「糖が尿にでる病気」という字を書きますが、現代では尿糖によって発見される例はほとんど無く、基本的には「高血糖」や「高血糖を反映する検査値」で診断されます。「尿に糖がでる」ような腎障害にまで進行させないようにする、というのが現代の治療目標の一つです。


A3: 高血圧による認知症リスクは降圧薬の使用によって多少は軽減できる。

 これはOu(2020)のエビデンスで示した通りです。生活習慣病にかからないことが最も低リスクですが、なってしまった場合には薬で血圧を下げることで一定のリスク軽減が得られることが科学的に示されています。「自分は高血圧を放置しても大丈夫だったから高血圧は放置するのが正しい」などと言っている医師がいるとしたら、その方はもしかしたら既に認知機能が低下しているのかもしれません。




【参考文献】(引用した順)

  • Ninomiya T, Nakaji S, Maeda T, Yamada M, Mimura M, Nakashima K, et al. Study design and baseline characteristics of a population-based prospective cohort study of dementia in Japan: the Japan Prospective Studies Collaboration for Aging and Dementia (JPSC-AD). Environ Health Prev Med. 2020;25: 64. doi:10.1186/s12199-020-00903-3

  • Xue M, Xu W, Ou Y-N, Cao X-P, Tan M-S, Tan L, et al. Diabetes mellitus and risks of cognitive impairment and dementia: A systematic review and meta-analysis of 144 prospective studies. Ageing Res Rev. 2019;55: 100944. doi:10.1016/j.arr.2019.100944

  • Pal K, Mukadam N, Petersen I, Cooper C. Mild cognitive impairment and progression to dementia in people with diabetes, prediabetes and metabolic syndrome: a systematic review and meta-analysis. Soc Psychiatry Psychiatr Epidemiol. 2018;53: 1149–1160. doi:10.1007/s00127-018-1581-3

  • 横野浩一. 糖尿病合併症としてのアルツハイマー病. 日本老年医学会雑誌. 2010;47: 385–389.

  • Ninomiya T, Ohara T, Hirakawa Y, Yoshida D, Doi Y, Hata J, et al. Midlife and late-life blood pressure and dementia in Japanese elderly: the Hisayama study. Hypertension. 2011;58: 22–28. doi:10.1161/HYPERTENSIONAHA.110.163055

  • Ou Y-N, Tan C-C, Shen X-N, Xu W, Hou X-H, Dong Q, et al. Blood Pressure and Risks of Cognitive Impairment and Dementia: A Systematic Review and Meta-Analysis of 209 Prospective Studies. Hypertension. 2020;76: 217–225. doi:10.1161/HYPERTENSIONAHA.120.14993

  • Wee J, Sukudom S, Bhat S, Marklund M, Peiris NJ, Hoyos CM, et al. The relationship between midlife dyslipidemia and lifetime incidence of dementia: A systematic review and meta-analysis of cohort studies. Alzheimers Dement. 2023;15: e12395. doi:10.1002/dad2.12395


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