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Kバレエ「カルミナ・ブラーナ」鑑賞記録

熊川さんが出ると聞き、観ない訳にいかない。
5/26(日)千穐楽に行ってきました。
熊川さんは「いま振り返るとあれが最後の出演作でしたね」ってなりそうなくらい、いつどれが最後の舞台になるのか分からないので見逃せない。
そして私は熊川さん最後のドン・ホセ(「カルメン」千穐楽でラストシーンの変更があった)を観ているのもあって、千穐楽の重要性が身にしみている。

今回はオーチャードホール。とった席は3階正面の後方。
遠いのは遠いんだけど、前の人の頭がかぶらず思ったよりも見やすかった。
オーチャードホールは3階席の音響が良いと評判で、最初の合唱が始まったときビリビリビリッと振動を感じてもうそれだけで感動した。
合唱の人が舞台を動く演出も人数が多いだけに壮観だった。
私は「カルミナ」初演は観ていなくて、コロナ禍での配信は観たもののあれは舞台というより映像作品だったので、今回は生の舞台として“浴びた”という感じ。
熊川さんの登場シーンでは双眼鏡を持つ手が震えて、もっと良い席とればよかったかなと思ったけど、配信ではフォーメーションが格好良いなーと思っていたので、上階から見下ろす形で再度フォーメーションをじっくり観られたのは嬉しかった。
推しを双眼鏡でのぞくとき、どうして手があんなにも震えてしまうんだろうね。

熊川さんは前回、黒くて二の腕が見える衣裳だったと思う。今回は一般的な白シャツ。
前回の衣裳だと格好良すぎたのだろうか。人類代表の位置付けを強調したのかもしれない。
しかし人類代表という位置付けは分かっていても、初演時は女神の役だったし熊川さんのレジェンドオーラからどうしても「神」に見えてしまった。
初演の祥子さんが運命の女神フォルトゥーナだったなら、熊川さんは時間の神クロノスといった雰囲気。
最初と最後の数分、出演時間は決して多くはないけれど、作品としてはそれがかえって良かったと思う。
「クレオパトラ」ではジュリアス・シーザー役の熊川さんが舞台をかっさらっていってしまった感もあったが(それはそれでファンとしては堪らなかったけれど!)、今回は合唱の迫力もあり、ダンサーたちもエネルギーに満ち満ちていて、熊川さんのオーラが調和していた、気がする。
「クレオパトラ」のときより遠い席で観たからそう思うだけかな。
それにしても熊川さんはそこに“いる”だけで舞台が引き締まっていた。
隣の席の人、熊川さんが動くたびに「ハァァァ……」と声にならない吐息を漏らしていて、私も静かに(お気持ちお察しします)と同調していた。

アドルフ役の飯島さんも素晴らしかった。
コンテの動きが映える人だなあと思う。
もとは男性の振りだったはずなのに、こなしてしまうのがそもそも凄い。
初演・配信時の関野さんは持ち前のテクニックを武器にした無邪気なアドルフといった印象だったのに対し、飯島さんはクレイジーさが際立っていた。
飯島さんの高い表現力で倫理観ともいうべきものが欠落しているアドルフ像を作り上げていて、演じる人による違いも面白かった。舞台の醍醐味。

合唱隊の中からサタンが現れ出る演出も良かった(悪魔はほんとうに身近なところに潜んでいるものだ)し、ヴィーナス役の小林さんも近年魅力を増しているように思う。
一番好きだったのは神父のシーン。
照明の効果もあって、あの狂った群舞、そしてその先頭に立つ石橋さん、何か突き抜けている。
石橋さんはこの神父の役が最高にハマっていて大好き。
悪い役が似合うのだと思う。
「クレオパトラ」のブルータスでも熊川シーザーを殺したとき瞳に炎が燃えているのが見えたし、「眠り」の闇落ち王子も好きだった。
今後も悪い役をどんどんやってほしい。

ほかでは、わりと露骨な凌辱描写や虐待描写があり、観ていて痛々しかった。
フラッシュバックを起こしてしまう人などを考慮して、上演前に注意喚起をはさむ映画が近年出てきているように、バレエ界もそういうアテンションを取り入れられないだろうか。
暴力描写があることを公式サイトの公演ページに載せる、上演前にスタッフが掲げる「写真撮影ご遠慮ください」ボードの一部に付け加えるなど、なんとか出来そうな気がする。
バレエはわりかし子どもも観に来ているので、親が子どもに配慮してあげる材料にもなるだろう。
「マノン」の看守のシーンなど、この作品だけの問題ではないし、今後もそういう作品は出てくると思うので、年齢制限を設けることは難しくとも何らかの手は打ってほしいなあと思う。

また、SNSで話題になっていた「ナチス描写」。
作品でナチスを扱うことはタブーではなくとも、犠牲者への敬意が必須だと思う。
その点、バレエは言葉がないだけにいろんな解釈が出来てしまうぶん映画などに比べると圧倒的不利。
私は終盤アドルフの存在が一時赦されたように見えて(んん?どういうこと?アドルフの願望が幻想になってる?)とちょっと理解に苦しんだ。
パンフ未読なのですが、どういうふうに書いてあったんだろう。
例えば「くるみ割り」の中国の踊りもよく差別表現が指摘されるけれどバレエ団によって対応はさまざまで、バレエ界全体が差別についてちょっと疎いのかな、という印象は否めない。
「カルミナ」のアドルフは根幹の役だけれど、幸いにも演出家は健在なことだし、ダンサーが男女入れ替われるくらい器の大きい作品なので、時代に合わせて改訂していってもらえたらと思う。

最後に。
「カルミナ」は普通だったら踊りが埋もれてしまうのではないか……というくらい合唱が大迫力だった。
しかしそれに呼応するかのようにKバレエのダンサーたちは合唱に負けないエネルギーを放出させていて、合唱と踊り、それからオーケストラ、それぞれの分野がそれぞれに刺激しあって高みへのぼっているようだった。
踊りのエネルギーを体感できた稀有な公演だった……ということをアンケートに書きたかったのだけど、また、ボールペン持って行くの忘れた。
Kバレエはアンケートがいまだ紙なのである。困っている。
会員証もデジタルになったくらいだし、アンケートもデジタルにしてほしい。切実に。
QRコードをピピッと読み込んで、帰りの電車で興奮冷めやらぬ文章をお送りしたい。
あとファンクラブ向け会報誌がどんどん発行されなくなっていって今や年1回だし、最新号に至ってはデジタルが先行配信されてアナログ会報誌はいまだ届いてないし……。もっと会報誌読みたい!
その要望を伝えるために、次回「ラ・バヤデール」はボールペン持参を忘れないようにしたい所存です。


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