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妊娠中に考えるジェンダーバイアス

妊娠5か月に入って、ついに胎動を自覚した。これまで胃腸の動きと判別ができなかったけれど、おなかの皮膚が小さくポコッと浮き上がる。胎動だ! これで病院へ行かずとも生存確認だけはできるようになったぞと嬉しかった。

初めはおなかの中で魚を飼っているような感覚。動きは頼りない。もし仮にこの胎動がSOSサインだとしても気づけないんだよな、親になる身なのに無力なもんだな、としんみりもした。けれどそのあと亀、ちいさな怪獣、と感じ方が進化していって、妊娠8か月現在はしんみりしてたのがウソみたいなほど激しく動いている。お願いだから眠らせてくれ。鳩尾と膀胱はやめてくれ。

その質問はほんとうに無害ですか

胎動が分かるくらい胎児が成長したということはエコー写真で分かることも増えてくる。この頃から「男の子?女の子?」と周囲に訊かれることも増えだした。

妊娠前には自分も無邪気に訊いていた質問だけれど、訊かれる側になってみると引っ掛かりを覚えた。まず、性別、かなり頻繁に訊かれる。理由は私も分かっている。胎児なんて情報があまりにも少ない存在だから、質問できる事柄が限られる。関心を示すためだけの、社交辞令のようなものだ。でも一方で、こう思わずにいられない。胎児の性別、そんなに重要ですか?

あまりにも訊かれるから、乳幼児の男女差で何か大きな事柄があるのかもしれないと調べてみたこともある。が、身長や体重、病気になりやすいかどうかなど、“傾向”として男女平均に違いは見られるものの、こんなん誤差では?くらいの数値で、結局は個人差のほうが大きいようだった。

もちろん病院など場合によっては生物学的性別が重要なのは分かっている。でも、でもさあ、と思ってしまう。多くのコミュニケーションでは、生物学的性別ではなくて、本人が決めた性別を尊重するものなんじゃないだろうか。

そして性別という概念を認識すらしていない幼子の性別を知りたがるのって、「相手を雑にカテゴライズして、自分の知っている傾向に当てはめて、なんとなく相手のことを理解したように思って安心したいから」ではないと、果たして言い切れるだろうか。

たとえ悪意がなくても

上の記事に書かれていることが私の不安を言い表していた。私はその問いの先に、バイアスを感じることが怖いのだ。ステレオタイプを押しつけられたくない。本人の性自認を曲げてしまいたくない。

考えすぎと思う人もいるかもしれない。全ての人が偏見を持っているわけでもないだろう。でも性別って、アンコンシャス・バイアスとして心理の奥深くに巣くっているものだ。そして幼子は、周囲のバイアスを敏感に察知して吸収してしまう。自分自身のアンコンシャス・バイアスの存在に気づいてがっかりすることが度々あるからこそ、余計にそう思う。

生まれてくる子には、「女の子だから」「男の子だから」と自分を縛ることなく生きてほしい。今の社会ではジェンダーバイアスを完璧に遠ざけることは限界があって悔しいけど、それでも私はできる限りでバイアスを遠ざける努力をしたいと思う。自分のためにも。

まずは自分から?

『女の子だから、男の子だからをなくす本』
ユン・ウンジュ著/イ・へジョン絵/ソ・ハンソル監修/すんみ訳、エトセトラブックス、2021

参考書として、韓国でロングセラーとなった絵本を買ってみた。ジェンダー規範に縛られずに自分を大切にして、それぞれ素敵な人になろう!という本。子どもにはこういう風に伝えればいいのか、ふむふむ、と思いながらページをめくり、また読み返そうと大切に本棚へ入れた。

日本でもジェンダー教育は一歩一歩進んでいる。先日、教育関連の仕事をする友人が生徒の呼び方をどうするか(「~さん」「~ちゃん/くん」)について同僚と議論したと話していた。性別にかかわらず、~さんと呼ぶ教育体制が増えているらしい。

この話を聞いて、すごく頼もしく感じた。そうやって改善に努めている教育機関を頼ることもできるんだな、と肩の力が抜けた。そうして自分が肩ひじ張っていたことを自覚する。

虐待を受けて育つと自分の子どもにも同じことをしてしまう連鎖傾向がある(といわれる)ように、私もジェンダーバイアスを無意識に子どもに押しつけてしまわないか心配していた。けれど子どもを育てるのは私だけじゃなくて、夫もいるし、義務教育もある。上記の絵本のように最近はジェンダーに関する本も多く出版されている。

自分だけ頑張らなくてもいいんだ。生まれてくる子が頼る大人は私だけじゃないし、多種多様な情報源があるし、いつかは子ども自身が自分にとっての正解を判断するだろう。当たり前のこと、すぐ見えなくなるね。

今からこんなんで先が思いやられるなあ。でも、悪いことばかりじゃない。妊娠したことで見える景色があって、こんな風に自分の視野が広がっていく感覚を大切にしていきたい。

次回、妊娠6か月。自分を大切にしているつもりがストレスを溜めていた話。

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