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しんどい営業マン

世の中にある仕事の多くは「営業」である。
それだけに営業をめぐる名言や志を語る人はたくさんいるわけだが、結局のところ営業は数字を作る仕事である。

ビジネスの基本は人が欲しいものを作り、それを人に売るということにある。ビジネスはお金が必要なので営業は必要であり重要な仕事である。

とはいえ、営業として人に売るもののすべてが顧客から求められているわけではない。私自身、銀行にいたころになかなか嫌な営業をしたものである。

銀行に入れば、大体の場合は事務をやった後に店舗で個人顧客を相手に営業をすることになるのだが、この個人向けの営業にはなかなかの地獄が広がっている。

銀行のビジネスモデルは人から預けてもらった金を、預金金利より高い利子をつけて人に貸すことで利益を出す(鞘を抜く、なんて言い方をすることもある)のだが、最近は金利が低いのでこれがうまくいかなくなっている。
そこで、投資信託や保険なんかを売って販売手数料を得ようと頑張っているのが今の銀行である。
この販売手数料を得ようと頑張るための営業がなかなかえぐい(詳しくは言わないが、極めて狡猾なのである)。


と、そんな営業がしょうもないと思って記者になってしまったのだが、ふと先日、私自身が営業を受けることがあった。それも、同業である某新聞の営業である。
電話が来て開口一番「現在、販売店が非常に厳しい状況でして…」と身の上話を繰り広げ始める。私にとっては販売店の状況などおよそ興味がないのであるが、そんな話をあれやこれやと繰り返して「5月からどうかおねがいできないか」と言ってきた。

新聞社など売れないものを作っている会社ではあるので、営業の苦労が実にしのばれるものだ。しかしまあ明らかに「ローリング作戦でも何でもいいからとりあえず架電して営業かけろ」などと言われてやっていることが分かり切ってしまうほど、声色が疲れすぎである。
背景事情や営業店の人の気持ちは痛いほどわかるのだが、しかしいらないものはいらないので丁重に断った。

営業の鉄則の一つとして「自社の商品にほれ込むことが大事」なんて言葉がある。銀行なんかで営業をしていた身として確かにそうだと思う。
ただ、私にとっての銀行の営業しかり某新聞の営業しかり、世の中の営業はかならずしもそうではない。上から命令されて、売らされているものにあふれている。

「営業なんてそんなもんだ、甘えたことを言ってんじゃねえ」と言われればそれまでだし経営において数字は間違いなく必要であるのだが、そんな売り方ばかりで果たして世の中全体いい方向に向かっているのか――と時に頭を抱えてしまうのは私だけなのだろうか。電話を切る時、そこはかとない虚しさに襲われた。

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