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愛と死の感覚

死の感覚を理解したのは、私が初めて悪夢を見た日でもあった。

 事実上、私は13月に生まれた子供になっていて、幼稚園では13月生まれの誕生会をする場面だった。同じ誕生月の子供たちが、そわそわあたりを見渡して、先生はやさしい顔をしている。

 13月がいつ増えたのか、不思議に思っていると、突然、部屋の電気が落ちた。真っ暗闇の中で、周りの子たちの泣き喚く声、先生の心配そうな声が鼓膜をガンガン叩き割る。私も誰かに助けを叫びたかった。だが、頭が真っ白になってしまって、声すらあげられなかった。


 ようやく電気がつき、ホッとして顔をあげると、そこには誰ひとりいなかった。

 私はだんだん背後に冷たい空気を感じ、それは死の感覚なんだと知った。ずっと我慢してたものが溢れて、なぜか涙が流れた。

 

 あれから、私は親になり、毎朝娘を幼稚園に連れて行っている。寂しがり屋で、すぐに私にくっついてくる娘で、その手を繋ぐと、指を抜ける冷たい風の温度を思い出す。

「おかあさんの手、ぬるい。」

娘が微妙そうに感触を述べる。

「あれ、ごめんね……。」

「でもちーちゃんの手はあったかくなったよ!」

みて!と差し出された手を握ると、少し温い感覚が繋がった。

 娘を見送って、私は自分の手に触れた。

 ぬるい血液は、脈を打ち、絶えず流れ続けている。

http://sokkyo-shosetsu.com/author.php?id=1389393528728420353「即興小説トレーニング」で書いたものです。あんまり役に立たない設定はあるが60分頭フル回転で書けて良かったです。

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