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"Black Contax"1st Impression

Contax 1型は1932年から1938年までの6年間に渡りZeiss Ikon社から発売された小型精密カメラ。「ライカを凌駕する」事を目的に、各操作部に当時の最先端技術を盛り込んだ、Zeiss Ikon社の威厳をかけたカメラである。

「Triotar 8.5cm f4」の試写に端を発しツァイス熱が暴走した(笑)私は、Contax 1型、通称"Black Contax"(以下ブラコン)を手に入れてしまった…。

私の周りの諸先輩方は口を揃えて「ブラコンはやめとけ。」と仰る。入手に際しネットや文献を毎日のように調べ読み漁り、どこに難点があるのか、なぜ皆ブラコンを「訳アリ」風に語るのか、そもそもどういう操作系なのか、ある程度把握した上で購入に踏み切った。

今回はブラコンのあらましと、フィルム2本を撮ってみての簡単な使用感を書き連ねてみたい。

Contax 1型 と Carl Zeiss Jena Tessar 5cm f3.5 

見ての通り、ブラコンは凄まじく格好の良いカメラだ。この姿だけでももうほかがどうでも良くなってしまうくらい気に入っている。(笑)

丸く優しいライカとは全く違う、箱型のカクカクしたボディ。艷やかなブラックペイントが施され、操作部はニッケルメッキの輝きを放つ。
無機質なマシーン感あふれるデザインはバルナックライカの素朴でシンプルな印象とは対極にある。
ブラコンはコンデイションの悪い個体が多いが、入手したこちらの個体はフルオーバーホール済であり、比較的綺麗な方だと思う。各所に操作に伴う軽微な塗装落ちが見られるが、製造されて100年近く経過した寂びの味わいを感じさせる、とても雰囲気の良いカメラだ。

レンズ横の大きなダイヤルが、シャッタースピードダイヤルと巻き上げダイヤルを兼ねる。

さて、ブラコンの最大の難所であるダイヤル操作の詳細は先人の記事に譲る。文の説明を読むと非常にまどろっこしく感じるだろうが、実際そこまで煩雑な操作は必要としない。要はシャッタースピード群を最初に決め、後に任意のシャッタースピードを決めるだけだ。各ダイヤルの回す方向、操作するタイミングにさえ注意すれば、壊れる事はないだろう。

ここで、バルナックライカとブラコンを比較してみる。両者とも、フィルム送りとシャッターチャージを"ダイヤル巻き上げ"の操作で行うのだが…

  ● バルナックライカ
 ・巻き上げはカメラ上部のダイヤル
 ・シャッターは布幕横走りのフォーカルプレーン
 ・フィルム送りも右から左へと巻き上げる
  ● ブラコン
 ・巻き上げはカメラ前面のダイヤル
 ・シャッターは金属幕縦走りのフォーカルプレーン
 ・フィルム送りは右から左へと巻き上げる

結論から書くと、「ブラコンは使いづらい」と言われている一番の原因は「一番よく使う操作部がレンズ横に鎮座している」事だと思われる。
お気づきの方も多いと思うが、バルナック型は各操作部の軸(巻き上げ&シャッターチャージ&フィルム送り)が3本とも並行なのに対し、ブラコンはこの3軸が全て直角に交わる。
この驚異的な機構を達成するべく、巻き上げの回転方向を変えるための傘歯車がある事が影響するのか、ダイヤル操作が重くなってしまうのである。(一方、整備されたバルナックライカの巻き上げは非常に軽やか。)
ブラコンが嫌厭されるのは、煩雑なダイヤル操作が要求される上、そのダイヤルが弄りづらいカメラ前面にあり、操作が重い事に起因するのだろう。

私の整備済みのブラコンだが、巻き上げはそこまで重くない。むしろ気にならないレベルと言っていいほど滑らかに操作できる。整備の行き届いた個体、もしくは保存状態のいい個体のダイヤルはそんなに重くないと思って頂いて差し支えないだろう。

今からブラコンを入手しようと検討されている(稀有な)方は、絶対に整備済個体を探すことを強くおすすめします。おそらくブラコンを知る先人達の印象は、残念ながら整備があまいorコンディションの悪い個体によるものだと考えられる。
…が、実はブラコンは販売当時マーケティング部から開発部へクレームが殺到したカメラだという逸話(?)もある。他に類を見ない複雑な操作は、販売員も説明するのに骨が折れたんだろうか...。

Zeiss Ikon Contax Ⅰ / Carl Zeiss Jena Tessar 5cm f3.5
Kodak Gold 200
Zeiss Ikon Contax Ⅰ / Carl Zeiss Jena Tessar 5cm f3.5
Kodak Gold 200
Zeiss Ikon Contax Ⅰ / Carl Zeiss Jena Triotar 8.5cm f4
Kodak Gold 200

私の入手したブラコンは、クッツ氏の分類で言えば6型。
距離計がハーフミラー方式ではなく、ドレーカイル式に改められた。ハーフミラー式の距離計を最初に搭載したライカから特許侵害を申し立てられた事による仕様変更である。このドレーカイル式(回転プリズム)距離計が、私を虜にしたのである…。

「2鏡システム(ハーフミラー方式)の構造上の欠点は、無限大から0.9mまでの距離計調整範囲全体を捉えるために、わずか3°の鏡の回転を140°のレンズ回転角に変換しなければならなかった事である。このため、あまり高い調整精度を期待できなかった。
…回転プリズム(ドレーカイル式)の調整角は90°あった。この距離計によってより高い測定精度が得られ、また機械機構がより堅牢なものとなった。」

ハンス・ユルゲン・クッツ 『コンタックスのすべて』より
P.55「自動調整の距離計」〜P.61「回転プリズム距離計」

もともと正確な距離計が売りだった(ライカより長い基線長を持っていた)コンタックスは、より正確で狂いの少ないドレーカイル式を搭載し、カメラとして"完成形"となったのである。
そして、その正確な距離計は中望遠レンズで威力を発揮するのである…私の好きな画角、8.5cm〜9cmの画角で撮影するにはもってこいなカメラなのだ。ということで、Triotar 8.5cm f4 に続き2本目のZeiss中望遠レンズをお迎えした。

Contax 1型 と Carl Zeiss Jena Sonnar 8.5cm f2

美しい…まさに威風堂々。こんなに姿のいいカメラが他にあるだろうか。少なくとも今のデジタルカメラは逆立ちしても叶わないだろう。

フィルム価格の高騰が昨今叫ばれる中、「今更フィルムカメラなんて」という向きもあるだろう。しかしこんなに魅力的なカメラ、扱わず放って置く事など私には到底できない。

デジタルカメラは便利だが、畢竟「家電」なのである。デジカメを否定するつもりは毛頭ない。私もデジカメを愛用しているし、現像に出さずともすぐにデータで確認でき、簡単に撮り直しが行える利便性はなくてはならないものである。

機械式カメラを操作し、光を読み、シャッターの感触を手に感じ、現像の上がりを待ち、自分が収めた光景に再会する。スローでアナログなフィルム写真の一連のプロセスは、写真を趣味とする人にとってはいくら技術が進歩しようとも陳腐化することはないだろう。

Zeiss Ikon Contax Ⅰ / Carl Zeiss Jena Sonnar 8.5cm f2
Fuji Venus 400 (期限切れ  ISO100相当の露出で撮影)
Zeiss Ikon Contax Ⅰ / Carl Zeiss Jena Sonnar 8.5cm f2
Fuji Venus 400 (期限切れ  ISO100相当の露出で撮影)
Zeiss Ikon Contax Ⅰ / Carl Zeiss Jena Sonnar 8.5cm f2
Fuji Venus 400 (期限切れ  ISO100相当の露出で撮影)

ゾナーの写りは、大変に美しい。
前ボケ、後ろボケともにスムーズで変なクセはなく、合焦したところは非常に線の細い優しい写り方。
テッサー、トリオターも純粋によく写る。デジカメで試写したことがあったためなんとなくの写りの雰囲気は想像できていたが、いざ本家本元のブラコンに装着し撮影すると中々感慨深いものである。


今回も長々と書いてしまった。というかまだ書ききれないことだらけなので、1st Impression はこの辺にしておこうと思う。
ネットでは「ブラコンは壊れやすい!」「操作するの大変だよ」「整備してくれるところがないから壊れたらおしまいだよ」という旨の書き込みが散見される。しかし、整備してくださる職人さんが完全にいないわけではないし、しっかり整備されたブラコンは全く操作にストレスを感じない。正直私はバルナック型より好きである。もう一台ブラコン欲しいなと思ってしまうくらい惚れ込んでいる。なんなら自分で直せるようになりたい程内部構造に興味がある。

Leica M5 でフィルムカメラはあがりかな…などと思っていた私だが…。
ああ。このブラコン様を迎え入れたことで世界が変わってしまった。(笑)


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