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「音楽理論が通用しない世界がある?」 【ゼロからはじめる音楽理論 No.3】

音楽理論が通用しない世界がある?

前回のブルースのところでもふれましたが、音楽理論の源流は、いわゆる「西洋クラシック音楽」です。

そして、「西洋クラシック音楽」の世界観を作っているのは、「12音平均律」というものです。

12音平均律とは「1オクターブを12均等分割する」といことです。

これは少しむずかしい言い方ですが、このように階段をイメージすると分かりやすいでしょう

12段あがると1オクターブ音が高くなります
このように「階段上に均等にならんだ高さの音」を使って音楽をつくるのが12音平均律の世界です。


別の言い方にすると、12個のグリッド上だけで音を動かせるというもので、これは将棋やチェスの盤面をイメージすると分かりやすいかもしれません。

将棋では枠の中にだけコマを置くことができますが、枠のうえの中途半端な場所にコマを置くことはできませんよね。

おなじように、「12音平均律」では、決まった12個のグリッドから外れた場所に音を置くことはできません。

この「12個の決まったグリッド上だけに音を置くことができる」という12音平均律の決まりは、ピアノの鍵盤ともピッタリ一致しています。

ピアノには、白と黒を合わせて12個の鍵盤があります。

しかし、将棋のコマを枠の上に置くことはできないのとおなじように、鍵盤と鍵盤のあいだの「微妙な1.5」とかを弾くことはできませんよね。

では、世の中には、12個しか音はないのでしょうか?
そんなことはないですよね。

たとえば、歌があまりうまくないひとは、歌いたいメロディーの音からちょっと低かったり、高かったりしてしまうことを、わたしたちは体感として知っています。

これは「歌うのを失敗して」つまり、「意図せず12音平均律の音からはずれてしまった」という状態ですが、もちろん「意図的に12音平均律からはずれる」という場合もありますよね。

たとえば歌うときやギターを弾いていてビブラートをかけるときもやはり12音平均律からはずれています。

とはいえ、これは、「12音平均律の音を中心として揺らしている」という状態なので、大きくみれば12音平均律上の動きであるともいえそうです。

しかし、世のなかには、「揺らしている」のではなく、「ずっと12音平均律から"ハズレて"いる」というものがあります。


例えば、インド音楽では「シュルティ」と呼ばれる22個の音程が1オクターブ内にあります。

なんと12音平均律の倍に近い分割数です。

インドでは九九の計算が「20 x 20」まであるというのは有名な話ですが、さすが音楽も桁が違います!

単純計算でいって、22ー12=10個の音が、「常に12音平均律からはずれた」状態です。

ここでは説明のために「はずれた状態」と書きましたが、もちろん12音平均律が「ただしく」て、インド音楽が「"ハズレて"いる」わけではありません。

インド音楽は西洋クラシック音楽の世界とはまったく違った体系をもっているということです。


さて、日本に住むわたしたちは、インド音楽はカレー屋さんにいったときくらいしか触れる機会がないかもしれません。

しかし、日常的に耳にするポピュラー音楽のなかにも「12音平均律の外の音」はあります。

それがブルースミュージックです。


ブルースはとても多くの音楽に影響をあたえています。

ロック、ジャズ、R&Bなどブラックミュージックを源流にもつ音楽はもちろんのこと、それらをアレンジとして取り込んだポップスまで、じつに多くの音楽がブルースの影響をうけています。

たとえブルースミュージックそのものをちゃんと聴いたことがなくても

「ブルースの影響を受けた音楽をいままでいちども聴いたことがない」

というひとはほぼいないのではないかと思います。



そして、ブルースがほかの音楽に与えた影響のなかでもいちばん重要なのが「ブルーノート」というもので、これが12音平均律の外にある音です。

ブルーノートはよく、「短3度の音」と表記されますが、これはある意味では「ピアノで弾くために簡略化されたブルーノート」です。

実際のブルーノートは、「短3度の音」よりも微妙に高い音で、ピアノでいうと「白鍵と黒鍵の間の音」になります。

つまり、「12音平均律のグリッド」から"ハズレた"音なのです。

しかし、「グリッドから"ハズレて"いる」からといって、「間違った音」として排除されたのか?というとそんなことはなく、むしろ、その魅力で多くのひとびとが積極的に使うようになりました。

このように、12音平均律から ”ハズレている” けど魅力的な音というのはたくさんあります。

つまり、12音平均律というのは、「すこし粗い網の目をもったザル」のようなもので、とりこぼしてしまう情報がたくさんあるのです。


「音楽理論」というりっぱな名前がついているので、あたかも「すべての音楽を説明できる完璧で絶対的な理論体系」であるかのようにカン違いしてしまいがちですが、そうではありません。

「音楽理論や12音平均律の外には、とても豊かな音楽世界がひろがっている」

ということを知っておくことは、音楽理論を学ぶうえでとても大事なことです。

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さいごまで読んでいただきありがとうございました!
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