28年続けてきたあることをやめた日
9月27日の夜、私は9歳から続けてきたことをやめた。
理由は一冊の本の一文だった。
『願いはやがて執着になる。執着になると願いは叶わない』
なるほどそうかと思い、アラームを一つ削除した。
私が28年続けてきたこと。
それは『23:11に願い事を3回唱えること』だ。
「37にもなってそんなことしてたのかよ草」
「叶うわけないじゃんダッさ」
と思う人もいるだろう。でもよく考えてみてほしい。
28年、私が9歳の頃から続けてきたのは紛れもなく【叶った!】と思う瞬間があったからだ。1度や2度じゃない。年だ。20年以上このおまじないに救われてきたのだ。
「じゅういちじじゅういっぷんにさんかいねがいごとをとなえるとかなう」
このおまじないを知ったのはあるラジオだった。歌手がゲスト出演することも多かったそのラジオは、学生や大人には人気のある番組だった。
小学3年生のときから自分の部屋があった私は、毎晩ラジカセでラジオを聞いては、当時大好きだったKinKiKIDSやT.M.Revolutionを追いかけ、発売予定のシングルをいち早く聴いていた。
そんなときに聴き始めたのが『船守さちこのスーパーランキング』、通称『スパラン』だった。
夜9時から12時近くまで放送されていたスパランは、毎日リビングで行われる両親の夫婦喧嘩に嫌気が差していた私の気持ちを晴らしてくれた。
当時飼っていた1匹のシーズーとスパランだけが本当に癒しだった。
野球中継で番組が短縮になると、もう最悪。楽しみが削られる思いで寂しかったのを覚えている。
スパランには多くの歌手がゲスト出演することも多く、Kami様が生きていた頃のMalice MizerやL'Arc~en~Cielなどが訪れてはどんちゃん騒ぎをしていた。
北海道のローカル番組のクセに、船守さちこと相棒の福永俊介(通称福ちゃん)が、ゲストをちょしてちょしてちょしすぎて、といった内容が、聴きごたえのある愉快な番組だった。
そんな楽しくて仕方なかったスパランでも、23時10分頃になると、願い事を叶えたいリスナーのFAXやハガキなどが読まれ、1分間神聖な音楽とともに願い事を唱える時間が設けられていた。
9歳だった私は、ある転校生を気になるようになっていて、なんとなく「またアイツとお昼休みに遊べますように」と祈った。
するとどうだろう。昼休みに追っかけっこするのが翌日からは日課となり、休憩Aでも軽く追っかけっこをするようになった。
そんな日々を繰り返して半年。私は走るのが前よりもかなり早くなっていた。
1年生からクロスカントリーをやっていたのだが、小学4年生からは体力づくりの一環として、クロスカントリー隊員は夏場は陸上をしなければならなかった。
まじでいや
だるい
学校終わったらすぐ帰りてぇ
そう思っていたとき「(そうだ!アイツを陸上に誘おう)」と決めた。その日から23:11に3回願った。
するとどうだろう。彼は陸上に入った。少年野球と併用して、すんなり陸上に入ってくれたのだ。
それからというもの、ウチにきて遊んで欲しい時も前の日に祈った。次の日、放課後見かけたアイツのいるグループに声をかけると、うちの庭先で8人くらいになって遊んだ。
中学に上がるときには「アイツと同じクラスになれますように」と願った。
これも叶った。1年生から3年までずっと同じクラスだった。玄関に貼り出された名簿を見ては「(まじかよまた同じになれたのかよ……)」と怖いような嬉しいような感覚だった。
席替えがあると聞いた時は「(アイツと席が近くなりますように)」と願った。
これも叶った。ほぼ離れたことがない。ずーっと前やら斜め前やら後ろやら横やら、なんだかんだ近くにいた。
だから給食のときも机を引っつけて食べたし、机をひっつけなくてもうしろからちょして遊んだりもした。
最終的には中学2年の春に彼と一発、いや2発ほど致すことになるのだが、それもスパランの23時11分のおかげだった。
そんなことがあってから、私は28年間ずーっと「じゅういちじじゅういっぷんにさんかいねがいごとをとなえるとかなう」を遂行していた。
でも昨日やめた。
その理由は、ある本の一文からだった。
その文をみた時に、最近やけに下降気味であることに気づいた。
願いを叶えたいばかりに【執着】に変わってしまっていたのか、と。
なるほどそうかと思い、アラームを消し、本を読み進めていく。
するとどうだろう。
『ちまたに溢れる金運アップアイテムはほぼ意味なし』
『引き寄せの法則がものを言う』
『最終的にはタイミング』
と書いてあり、なにやらきな臭さを感じた。
トドメとなったのは『ちまたに溢れる金運アップアイテムはほぼ意味なし』と書いてたくせに、最後の最後に著者のプロフィールを見たら『鉱石などのブレスレット販売店も経営』といったことが書かれていた。
私はそっとアラームを作り直した。