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【アメリカ】給与調査 ~従業員の採用とリテンションのために~【基本情報】

アメリカの給与は日本とは大きく異なる特徴を持っており、特にポジションや経験年数、勤務エリアによって変動する所がポイントとなります。

例えば、日本では営業部長が総務部長に配置転換されたとしても、給与が変わらないケースが多いのかと思いますが、それは年次や役職のレベルで給与額が決まる様な仕組みになっているからだと考えられます。一方で、アメリカでは職種によって給与相場自体が異なるため、営業部長と総務部長とでは、給与に差が出るといったイメージになっています。

アメリカの給与の特徴

平均給与
● アメリカの平均給与は地域や職種によって大きく異なる。
● 一般的に、都市部では給与が高く、地方では比較的低い傾向がある。
● 技術職や専門職では給与が高い。

給与形態
● 給与は通常、時給または年俸制(サラリー)で支払われる。
● 時給制の場合は、労働時間に応じて給与が支払われる。
● 年俸制の場合は、年間の給与額が月ごと・隔週ごとなどに分割して支払われる。

残業代
● 時給で働いている従業員の一週間あたりの勤務時間が40時間を超えた場合、その時点から時給が1.5倍となる。
● カリフォルニア州に限っては、週40時間以外でも時給が1.5倍になるルールが定められている。

最低賃金
● アメリカには連邦、州、地方レベルで最低賃金が設定されている。
● 州や地方によって最低賃金は異なり、また複数の最低賃金が定められているエリアでは、設定されている金額の中で最も高いものが適用される。

コミッション/インセンティブ
● サービス業や営業職では、コミッション/インセンティブ(≒成功報酬)が重要な収入源になる事がある。
● これらは基本給与に加えて支払われ、収入を大きく左右する事がある。

こういった特徴がある中で、「従業員に対して適正給与を支給する」事が優秀な人材の獲得とリテンション(保持)に必要な競争力を維持するために不可欠であり、雇用主が最も気にするべき点の一つになります。

その様な中で、雇用主が行うべき事として「給与調査(基本給ベンチマーキング)」があります。

この給与調査を行う事によって、「雇用主が支払っている給与」と「市場の一般的な給与」を比較する事ができ、従業員や新規募集ポジションの給与額を適正にするための重要な情報となります。

そのため、この記事では「給与調査の重要性とそれがどういったものなのか」といった事を解説しています。

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1. 給与調査の重要性

トップタレントのリテンション

優秀な従業員をリテイン(保持)するために、競争力のある基本給の設定は不可欠です。アメリカでは、働く事は「キャリア」というコンセプトが基となっており、専門性や給与を高める事を中心に考えられて形います。そのため、従業員は今後の経験や給与に対して大きな関心を持っており、自身が求める経験や給与が見込めない、あるいはそれが不明瞭だった場合に転職を考えます。

給与調査を行う事によって、支給・企画している給与額が業界標準とどの程度乖離があるのかなどを把握する事ができる様になり、優秀な従業員をリテイン(保持)するための適切な給与を設定できる様になります。

採用時の競争力の向上

アメリカでは、様々な雇用主が常に募集を行っているため、広報車には多くの選択肢があります。そのため、人材を募集する際に提示している給与額が市場平均を大幅に下回ってしまうと、適切な候補者を引き付ける事が困難になってしまいます。

そのため、給与調査を行い、特定の職種に対する市場相場を把握する事によって適切な給与提示ができる様になり、人材市場における競争力を維持する事によってトップタレントを引き付ける事ができる様になります。

公正かつ平等な報酬

アメリカには「雇用差別」という概念があり、その中には賃金に起因するものも含まれます。例えば、同じ職務内容や責任のあるポジションにいる男性と女性で給与が異なっている場合に、差別とみなされてしまう可能性があります。

そういった状況を未然に防ぐためにも給与調査は重要で、現在の給与額を市場データと比較した上で給与を適宜調整し、賃金の不均衡を防ぐ事や、従業員のスキル・経験・職責に基づいた形で公平に支払う事ができる様になり、公正かつ平等な給与支払いが実現します。

モチベーションと従業員満足

転職機会が常にあるアメリカでは、従業員のリテンションを促す事が雇用主にとっての大命題です。これが上手くできなかった場合、従業員が離職してしまったり、モチベーションの低下によって生産性にも悪影響を及ぼしてしまう事が考えられます。

従業員が「公正に報酬を受けている」と感じた場合、従業員と組織の関係は良いものとなり、モチベーションも高まる要因にもなりえます。そのためには適切な給与設定が必要となりますが、給与調査を行う事によって業界水準の把握や、適切な給与額を定める事ができる様になります。

データ駆動型の意思決定

給与調査は、雇用主に有益なデータを提供し、情報に基づいた意思決定を行う事を促進させる事ができます。各ポジションの給与金額設定を業界標準や地域の差異などと比較する事によって現実的な給与レンジやインセンティブプログラムを設計する事や、パフォーマンスや経験など基づいた適切な給与調整を行う事ができる様になります。

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2. 給与調査のイメージ

給与データの抽出

給与調査は、主に三つの基準に基づいて行われ、①雇用主の業界、②対象ポジションの勤務エリア、③そのポジションの具体的な職務内容を考慮し、データが抽出されます。

給与データを評価する際、一般的には中央値(Median)が参考の主要指標として用いられます。この中央値は、全データの中央に位置する値を指し、より代表的な給与水準を示しています。また、75パーセンタイルは、自身の給与が周囲よりも高い場合のデータポイントであり、逆に25パーセンタイルは、自身の給与が周囲よりも低い場合のデータポイントを意味します。これらのパーセンタイル値は、給与分布の特定の区切りを示し、個々の給与が全体の中でどの位置にあるかを理解するのに役立ちます。

給与調査レポートにはさまざまな形式があります。このサンプルレポートでは、職種ごとにキャリア年数に応じた中央値を使用しており、具体的には、Entryレベル(1年目)、Proficientレベル(7年目)、Experiencedレベル(14年目)のデータがまとめられています。

ちなみに、ここでの「〇年目」とは、その雇用主での勤務年数ではなく、特定のポジションに就いているキャリア年数を指します。重要な注意点として、これらの数字は「対象ポジションの一般的な金額」という外的要因を反映していますが、組織内の給与設定は、この外的要因に加えて「内的要因」、すなわち組織の財政状況などの内部事情が影響します。

したがって、レポートのデータは参考情報として有用ですが、この情報がそのまま組織の給与レンジになる訳では無く、実際の給与設定は組織独自の要素も考慮して設定される必要があります。

昇給シミュレーション

対象ポジションの給与レンジに設定は一度きりの作業では無く、インフレーションなどの経済的要因を考慮し、定期的にレンジを見直す事が必要になります。また、給与レンジの調整を行ったとしても、従業員の昇給が続けば最終的にはそのレンジの上限に達する可能性があります。これを「Red Circle」と呼び、雇用主は従業員がこの状況に到達する時期を把握し、対策を立てる事が重要です。

そのため、Red Circleに到達する時期を予測し、その前に昇格の機会を提供するか、従業員の自然な入れ替わりを前提とするかなど、組織は戦略的な計画を立てる必要があります。このような予防策は、組織の長期的な成功と従業員の満足度を高めるために重要な役割を果たします。

給与戦略と予防策の立案には多様なアプローチがありますが、このサンプルでは、各従業員の昇給率とCompa-Ratioと給与分布を可視化し、給与の公平性の評価や、必要に応じた調整を行うための重要なツールとなっています。

組織内の給与の不均衡を明確に把握する事によって、例えば給与の不均衡がある場合、組織内の給与構造を改善する事ができる様になります。こういったプロセスは、従業員のモチベーション維持と組織の全体的な健全性に寄与する重要なステップです。

ちなみに、「Compa-Ratio」は設定した給与レンジ内での従業員の位置を示す指標であり、Compa-Ratioが1.0であれば、その従業員は給与レンジの中央に位置しており、この値が1.0を超えるにつれて、従業員は「Red Circle」、つまり給与レンジの上限に近づく事を意味します。

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3. 給与レンジの公開義務

最近の給与関連の大きなトレンドとして、通称「Pay Disclosure Requirement」というものがあります。これは、「Pay Transparency Law (給与透明性強化法)」の一環で、対象となる雇用主は社内外の求人や募集に関して、対象となるポジションの給与レンジ、つまり最低給与から最高給与までの範囲を公開する事が求められるというものになります。

IndeedとLinkedInの募集案件の例

この給与レンジの公開義務は、2023年9月からニューヨーク州で開始されており、ニューヨーク市や隣接するニュージャージー州のジャージーシティ市では2022年から、そしてカリフォルニア州においても2023年1月から導入されています。この動きは全米へと広まりつつあり、2024年にはハワイ州で、さらに2025年にはイリノイ州でこの法律が施行される予定となっています。

このPay Disclosure Requirementは、法律を遵守する事のみを考えれば、人材を募集する際に何かしらの給与レンジを記載すれば良いという事に留まるのですが、実際にはそれでは全くの不十分だと考えられます。

ポイントとなるのは、応募者が各雇用主の求人広告を見る際、記載されている給与レンジに開きがあった場合は当然高い方に関心を持つ事になる事にあります。そういった場合、優秀な人材を確保する事が難しくなってしまう懸念が発生しますが、何よりも、給与レンジを明示する事によって、面接時に応募者から「自分の給与はどこから始まるの?」「給与の上限に近づくための条件や手段は?」「給与の上限達した後のキャリアパスや待遇はどうなっているの?」などといった質問が増加する点が挙げられます。

さらには、こういった質問は新規の応募者だけでなく、法律の対象外である現職の従業員からも寄せられる事が大いに予想されるため、各雇用主は入念な給与ストラクチャーを考える必要があります。そして、この給与レンジの設定はトレンドとなりつつあるため、Pay Disclosure Requirementが定められて無いエリアでも取り組む事が推奨されます。

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文責:Kimihiro Ogusu, SHRM-SCP|中央大学 非常勤講師
外資系大手コンサルティング会社のシニア・コンサルタントを経験。現在はSolutionPortの代表を務めながら、中央大学で教員としてHRの授業を担当している。HRの専門はTotal Rewardと Job Architectureで、米国HR協会の上級プロフェッショナル資格であるSHRM-SCPを保持。
アメリカと日本双方の義務教育を始め、日本にあるベンチャー/上場企業、日本に本社を置く米国法人、アメリカにあるローカルの日系企業、および外資系企業の勤務経験があり、日米における文化の違いを熟知するバイリンガル。
三菱UFJの法人会員向けの情報サイトである、MUFG BizBuddyで大好評連載中。SBS Radio(静岡放送)にも継続的に出演している。

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