明けの明星
夜の果て。うっすらと朝の気配が漂う。佳央は目を覚ました。枕元のスマホを見ればまだ5時前だ。まだ眠れるなと思った。
手を少し動かすとゆかりの髪に触れた。彼女はまだぐっすりと眠っている。佳央に背を向けて眠っている。佳央はゆかりの髪に顔を埋める。しなやかな手触りと桃の香りがする。夜の蠢くような営みを佳央は思いだす。動物の鳴き声、さざめくような波、中から炙られるような熱。佳央はゆかりの髪を撫で、自分の手に絡める。そっとゆかりの首筋から背中にかけて口付けをする。ゆかりが身じろぎをした。佳央は慌ててゆかりから体を離す。今日は休日だからゆっくり眠ってもらおう。
ゆかりが寝返りをうった。向かい合わせになる。人の寝顔はなんて無防備なんだろう。佳央は思う。この寝顔を見苦しいと思うか愛おしいと思うかはその人次第なのだろう。ゆかりが寝顔を見せてくれる、それだけで、佳央は満たされた気持ちになる。ゆかりが自分のテリトリーに佳央を入れてくれている。信頼されることの喜び。口が少し開いている。愛らしい寝顔だ。
ゆかりの胸がゆったりと上下している。佳央は飽きずに眺めていた。ゆかりの体には夜の名残がひっそりと印されていて、佳央はそれが自分がつけた跡だとにんまりとする。それは佳央が切望したことであり、ゆかりがそれを喜び許したのだ。
自分の望みが相手の喜びとなることはなかなかない。それこそ奇跡だ。佳央はそう思い、幸運に感謝した。
ゆかりの寝息を聞いていたら、佳央は眠たくなってきた。
二人は眠りの蓮にのり、安らかな繭の中に閉じこもる。