見出し画像

【短編】破壊衝動

 ベコン、という大きな音が聞こえた。夜の散歩中にそんな音が聞こえてきたのは、これがはじめてだった。堤防から河川敷を見おろすと、男が二人いるのがわかった。彼らの近くには荷物いっぱいの軽トラックが停まっていた。

私は通りすがりのふりをして、探偵みたいに彼らのようす観察した。ひとりの男は、軽トラックにもたれて煙草を吸っていた。もうひとりの男は、芝生に横たわっている本棚に金属バットを振り下ろした。ベコン、さっきの音だ。本棚が死んだ。


「最高!」とバットをもつ男が言った。煙草を吸う男がうなずいた。

 年齢は、どちらも大学生くらいだった。きちがい集団、かしら。



 煙草を吸う男が、こっちを見た。煙を吐きながら、手を振ってきた。私は前髪を整えて、手を振りかえした。


「ねえ、降りてきなよ」

「あなたたち怖い人?」

 バット男が本棚の死体を足で踏みながら、私を見た。

「俺たちは安全な人たちだよ」


 私は河川敷の階段を、ゆっくり降りて、彼らの方に、足を進めた。上着のポケットに手をつっこんで、背筋を伸ばした。


「俺は矢田。こいつは甲斐」とバットの方の男は言った。「君、名前は?」



「さやか」と私は嘘の名前を言った(なんとなく)。

「さやかちゃんか。学生?」と甲斐さんが言った。

「うん。大学一年生」と私は答えた。本当は高校二年生。「ここでなにしてるの?」



「破壊さ」と矢田さん(だっけ?)が言った。  芝生には木片が散らばっていた。矢田さんが続けた。

「甲斐が持ってきたものを、ここで破壊してるだけ。ここは住宅から離れてるし、人もあまり通らないし、思い切りやれるんだ。物を破壊するのって、すっげえ気持ちいいんだよ。ディズニーランドの、どのアトラクションよりも楽しいぜ。さやかちゃんもやってみなよ」



 私は金属バットを渡された。重たくてグリップが湿っていた。あとでちゃんと、手を洗わなくちゃ。試しにひとスイングした。ふおおん、と暗闇を撫でた。



「いいねえ」と矢田さんが言った。「甲斐、あれ出してやりなよ」


「メインディッシュね」と甲斐さんは言い、軽トラックの荷台をごそごそ漁りはじめた。よっこいしょ、と彼は窓のある側を下にして電子レンジを地面に置いた。


「こいつはさやかちゃんの餌食だ」

 ここにきて、急に、胸がどきどきしてきた。本当にこんなことをしていいのだろうか。やっぱり、やめとこうかなあ。

そんな気持ちを察知したのか、甲斐さんがこっちにやってきて、私の背中をぽん、と優しく叩いた。
「人はみんな、ストレスを抱えて生きているんだ。さやかちゃんだって、ムカつくこととか、いっぱいあるだろ? そういうのは吐き出さなくちゃいけないんだよ。大丈夫。俺たちがいつも壊しているのは、もう使わなくなったものだけだから」

「やっちゃえよ」と矢田さんが言った。


 私は電子レンジの前に立って、ゆっくり息を吐き、スイカ割りみたいにまっすぐバットを振り下ろした。

べちん。

電子レンジのコンセントの部分がちょっとだけへこんで、両手にぴりぴりと振動を感じた。後ろを振り返って二人を見た。

彼らは笑顔で肯いて、さあさあもう一回といった具合に、手の平を上に向けた。


 次に私は塾の数学の先生を思い浮かべながら、力いっぱいバットを振った。電子レンジの背中に小さなクレーターができた。あのくそったれ先生もさぞかし痛かったに違いない。

すっかり熱中して、何度も何度もバットで電子レンジを叩きまくった。塾の先生、嫌いな友だち、体育の先生、嫌いな後輩、えっと、塾の先生。爽快だった。


「さやかちゃんいいね」と甲斐さんは言った。「その調子」


 正面打ちばかりでなく、横から殴るようにバットを振ったり、ついには蹴り飛ばしたりもした。正直、私は非力だったから、電子レンジはほとんど破損してなかったけど、甲斐さんの言うとおり、ストレス解消には効果があった。額の汗をぬぐい、片方ずつ腕まくりをした。

最後、私は泥だらけのメインディッシュを持ち上げて、思い切り放り投げた。

おりゃあ!


 あんまり飛ばなかったけど、ゴロゴロと転がって愉快だった。二人も大笑い。よろめきながら、私も笑った。でも、とつぜん頭がぼーっとしてきた。

倒れそうになって、バットを地面につき刺して、グリップを握ったままその場にしゃがみこんだ。甲斐さんが私の背中をさすってくれた。加点。


「最初はみんなこうなっちゃうんだよ。頭に血がのぼるんだ。ほら、深呼吸して」


 私は彼の言う通りにした。吸ってぇ、吐いてぇ。甲斐さんから良い匂いがした。加点。


「これ飲みなよ」と甲斐さんは私に缶コーヒーをくれた。しかもわざわざ開けて渡してくれた。もちろん加点。私はお礼を言って両手で受け取った。


「さやかちゃん、鬼みたいだったよ」と矢田さんが言った。「よっぽど嫌いな奴がいるんだなあ」

 どーも、と私は言い、コーヒーを飲んだ。正直、苦すぎた。でも大学一年生という設定を思い出したので、我慢して飲み込んだ。手の平を見ると、指の付け根にマメができていた。



風に吹かれた河川敷の木々が、乾いた葉の音を響かせていた。川が穏やかに流れていた。私はしばらくその場にいさせてもらって、軽トラックにもたれて、すこしずつコーヒーを飲んだ。となりには甲斐さん。今度は、矢田さんが電子レンジの相手をしていた。


「苦かった?」と甲斐さんは言った。私は首を振った。

「また来ていい?」

「もちろん。でも、パパとママには内緒だよ」



何度もその河川敷に行った。散歩というていで家を出て、二十分後には、バットであらゆるものを破壊した。甲斐さんはいつも軽トラックいっぱいに、家具や家電用品を持ってきていた。

矢田さんや私以外にも、この破壊場に訪れる人はたくさんいた。四十代くらいのおばさん、仕事帰りのサラリーマン、肌荒れした中学生、腰の曲がったおじいさんまで。ちなみにそのおじいさんは、なぜか総理大臣の名前を連呼して物を壊していた。

とにかく、みんな夜中にこそっとやってきて、その日に溜まったうっぷんを晴らして家に帰った。もちろん、このバイオレンスな憩いの場を誰も通報なんてしなかった。明日には警察が電子レンジを殴っていてもおかしくない。みんなストレスをかかえて生きている(わかるでしょ?)。


 いちばん盛り上がったのは、甲斐さんが冷蔵庫を持ってきたときだ。私たちはその冷蔵庫を囲って、みんなでぼこぼこに殴りまくった。リンチ。残酷この上なし。

腰の曲がったおじいさんは冷蔵庫を叩きながら、国会議員の名前を叫んでいた。おばさんたちは夫の名前を、サラリーマンたちは上司の名前を、中学生たちはいじめっ子の名前を。

みんな悪魔みたいだった。ここが地獄だ。秋の夜空に、冷蔵庫の悲鳴を聞かせてやった。木々をすみかにしていた鳥たちは、引っ越しを余儀なくされた。




 期末テストがはじまった。今日は英語と保険体育のテストだ。シャープペンが答案用紙を走る音が教室を満たしていた。だれかがくしゃみをすると、よく聞こえる。教卓に座る先生は、呑気に文庫本を読んでいる。


 私は消しゴムにシャープペンをぶすぶす刺しながら、甲斐さんのことや、あの河川敷のことを考えていた。もう行くのはやめよう、あんなふうにストレス発散するのはよくない。でも、物を壊すと、気持ちが和らぐ。甲斐さんもいるし。


うーん。


いつの間にか、消しゴムの両端を握ってびりびりと破りはじめていた。やがて消しゴムは二つになり、私は慌ててテストに取りかかった。



(四) 精子と【オ】の受精からはじまる妊娠は、主に女性の【カ】で行われる。(各三点)


 横を見ると、男子生徒がにやにやしながら問題を解いていた。やっぱり同じ歳の子じゃ、ぜんぜん燃えない。みんな子供っぽいもん。



放課後、私と友だちのアミは、喫茶店に入って次の日の勉強をした。うそ。結局おしゃべりして、時間を無駄にした。


「そういえばさ、新しい彼氏できたんだ」とアミは言った。

「え、切り替えはやぁ」と私は言った。「前の人と別れてそんなに経ってないでしょ?」

「だって、高校生でいられるのは、あと一年半しかないんだよ?」

「たしかに」と私は同意した。「で、新しい彼氏どんな人なの?」
「それがさ、これ内緒にしてほしいんだけど」アミは身を乗り出した。「松本さんって知ってる?」

「うん。一年生のとき同じクラスだったよ」と私は暖かいカフェオレを飲みながら言った。

「その松本さんの彼氏なんだ」

 私はびっくりして、口から飲んだものが出そうになった。アミは笑った。

「大丈夫? でね、その人、ウチらより四つも年上なんだ。車に乗せてくれるし、大人ってかんじ」

「いいなあ」と私は口を拭いて言った。

「年上はいいよぉ」とアミは言った。

 開いただけのノートの上に、粉々に破ったストローの袋が散らばっていた。

 

 塾がある日も憂鬱だけど、塾がない日も「明日は塾がある」と考えて憂鬱だった。だから私はママに抗議活動をした。ママはキッチンで野菜炒めを作っていた。私が声をかけると、火を止めてテーブルに落ち着いた。


「今日、パパ飲み会でいないから」とママは言った。

 そんなのどうでもよかったから、私は無視してママの目の前に立った。


「塾やめたい。数学の講師が嫌いなの」

「それは違うわ。数学が嫌いだから先生に八つ当たりしてるんでしょ」

「あいつのせいで数学が嫌いなの」

「いいえ。あなたは昔から算数が得意じゃなかった」

「じゃあ、あいつのせいでもっと苦手になっちゃうかも。ねえ、ママ。なんでもかんでも否定するのやめてくれない? 鬱陶しいんだけど」

 ママはため息をついた。

「あたしったら、あなたを計算通りに子育てできなかったみたい」


 私は扉をぴしゃんと閉めて、家を出た。



「今日は荒れてるね」と甲斐さんは言った。

 私はちらっと彼の方を見て、また破壊にとりかかった。今日のお相手は炊飯器。小さいけど、私は容赦なくバットを振りまわした。

もちろん頭で想像しているのはママの顔だ。ママはそこらじゅうへこんで、フタをぱかぱかさせた。ざまあみろ。近くでは中学生のグループが、一緒に木製タンスをいじめていた。

また良くない方法で気分転換してしまった。マメがつぶれて痛い。


「いまテスト期間中なんだ」と私は甲斐さんに言った。

「そりゃあ、しっかりここでガス抜きしないとね」と甲斐さんは言った。年上の男ってかんじ。

 私は軽トラックにもたれて、甲斐さんが飲んでいた缶コーヒーを横取りしてやった。


「ねえ。テストが終わったら、一緒にご飯いこ」と私は言った。


それからぐいっとコーヒーを飲んだ。コーヒーの中に煙草のにおいが混ざっていて、それがびっくりするくらい大人だった。




 数学の講師がホワイトボードに汚い文字で数式を書いた。ここの塾の教室は小さくて、二十人くらいの生徒が密集して授業を受けていた。

私は「ハヤクオワレ、ハヤクオワレ」と講師に呪いをかけていた。この講師の嫌いなところだけで、一冊の小説が書けそうだ。いちばん嫌いなのは、彼の口癖だ。計算式の答えをホワイトボードに書くときの口癖。


「これすなわちイコ~ル、2。つまり問五は、2が答えということになりますな」


 これすなわちイコ~ルという部分が、いちばんバットで殴りたくなる。私はそれを甲斐さんに話した。彼はひひひと笑って、またフォークにパスタを絡ませた。

甲斐さんは美味しいイタリアンのお店に連れて行ってくれた。私はタンスに入っているベスト・オブ・大人っぽい服を着てきた。ママのシャネルのリップも借用した。あんまり履かないハイヒールは歩きにくかった。

甲斐さんはオーバーサイズのニットを着ていて、よく似合っていた。美味しいパスタを口にふくみ、甲斐さんを見た。目があって、あわてて逸らした。


「甲斐さんは、いつも私たちが物を壊してるの見てるだけだよね。ストレスとか溜まらないの?」と私は訊いた。


「俺はあんまりストレスとかは溜まらないね。見てるだけで満足なんだ」と彼は答えた。



 なぜか、胸がうずうずした。



 料理を食べ終わると、甲斐さんの車に乗せられて、次はどこに連れて行ってくれるのだろうとわくわくしながら、シートベルトを握りしめた。彼の運転している姿を見ながら夜のドライブを楽しんでいると、私の家の最寄り駅についた。


「さやかちゃん、本当は大学生じゃないでしょ。これ以上は俺が捕まっちゃうよ」

 甲斐さんはハンドルを握りながら、静かに言った。

「なんで? 証拠は?」とひきつった笑顔で私は言った。

「大学生は塾で計算式なんて習わないだろ」と甲斐さんは言った。「またいつでも河川敷においで」


 私が車から降りると、彼は手を振って、あっという間にいなくなってしまった。今日一日、甲斐さんが一度も煙草を吸っていなかったことに気づいた。

これすなわちイコ~ル、私は最後まで子供扱いをうけていたのだ。


 帰り道、家の近くで、カップルがいやらしい方のキスをしているのを目撃した。それはパパだった。でも女の方は、ママじゃなかった。

私は回れ右して散歩に出かけた。河川敷には行かずに、慣れないハイヒールで歩き続けた。理由もなく母校の中学校で足を止めた。

涙が出そうだったけど、我慢した。力強く、握りこぶしを作っていた。

子供扱いしやがって! 


 中学校の正門は閉まっていた。体育館だけ明かりがついていて、キュッキュッとシューズの音が聞こえた。ついに自分は悲しいんだと認めて、手の平で口紅をぬぐった。靴を脱ぎ、ヒールをへし折った。裸足で立つコンクリートは冷たかった。



 あまり河川敷に行かなくなった。甲斐さんに会いたくなかったからではなく、物を壊すだけじゃストレスを発散できなくなったからだ。炊飯器やら掛け時計やらをバットで割っても、何も感じなくなった。

私は変わった。新しく買った消しゴムをたいせつに使い、授業を集中して受けた。でも、さざ波のような胸騒ぎだけが収まらなかった。

私の中の私は常に目を光らせていて、飢えた獣のようによだれを垂らしながら静かに何かを待っていた。


 チャイムの音が鳴って、四限の授業が終わった。ひとりで教室を出てトイレにいくと、ばったり松本さんに会った。アミに彼氏を取られた松本さん。彼女は去年より垢抜けていた。


「久しぶりだね」「うん、久しぶり」

 そんな感じに私たちは挨拶をすますと、それぞれ個室に入った。便座に腰を下ろすと、例の胸騒ぎがして、ぎゅっと手を握った。松本さんの個室から水の流れる音が聞こえると、私は彼女にあわせて外に出た。洗面台の前で私たちは横並びになった。松本さんはこっちをちらっと見て、手を洗った。

「松本さんにちょっと話があるんだ」と私は鏡ごしに彼女を見て言った。

「内緒のやつ」




 今日は塾がなかったから、散歩に出かけた。街灯に両手を照らすと、マメが治りつつあるのがわかった。こがらしに身を震わせながらも、陽気に歩いた。

思い出し笑いを抑えて、ぐすっと顔を歪ませた。口角を落とし、目を縮ませ、おでこにシワをよせる。

さっき私の話を聞いたときの、

松本さんの物真似。


 河川敷に近づいてくると、物が壊される音が聞こえてきた。今日も派手にやってるなあ、と私は堤防から彼らを見下ろした。

甲斐さんはいつも通り、軽トラックに身をあずけていた。矢田さんと二人の女の人が、コピー機をバットで叩いていた。彼らの近くには本棚や扇風機の死骸がころがっていた。



 今日、私は河川敷に友だちを誘った。電話したらすぐに来てくれた。その友だちと階段を降りると、甲斐さんと矢田さんたちは驚いた顔をした(歓迎してくれないみたい)。


「は? さやかちゃん、何チクってんの?」と甲斐さんは私を睨んだ。


「さやかちゃんってだあれ?」と私は言った。


 警察官三人は無線でぼそぼそ連絡をとった後、甲斐さんたちを捕まえた。私は生まれてはじめて手錠を見た。わお。頑丈そうで、とてもバットじゃ壊れなさそうだ。

遠くからパトカーのサイレンが聞こえた。こうして地獄の門は静かに閉じた。


 警察署の真っ白な部屋で、自分も何度かあの破壊場を利用してしまったことを認めた。注意を受けたけど、通報したという功績のもと、すぐに家に帰ることができた。

しばらくするとパパとママが車で迎えにきてくれた。駐車場には、あの軽トラックがあった。メインディッシュのコピー機が積んであった。

 私は後部座席に座って、パパとママの後ろ姿を眺めた。とっても微笑ましかった。パパは上機嫌だった。


「お前が誇らしいよ」とパパが言った。

「偉いぞ」



 次の日の朝、ママは私の好きなエッグトーストを作ってくれていた。わたしはそれを食べて、気分よく家を出た。

夕食には私の好きなオムライスが出た。ちょうどチキンライスにオムレツが覆いかぶさるところだった。あとはケチャップでお絵かきするだけだ。


「卵料理ばっかり」と私はテーブルに腰掛けて言った。

「朝と夜だけじゃない。学食では何を食べたの?」とママは言った。

「チャーハン」

「あら、まあ」

 私たちは一緒になって笑った。

二人でご飯を食べていると、つい最近まで物を壊してストレスを発散していたことが嘘のように思えた。こうやって誰かと一緒に笑いながら食事をとることが、心を温かくしてくれるのに、私はもっとはやく気づくべきだった。


……というのは冗談で、あの河川敷は、私にいびつで厄介な後遺症を残した。


「パパは会社の人と飲み会なの」とママは呆れた口調で言った。


 きっとパパも『卵』が大好きなんだな。正解、三点! 私は思わず口角が緩んだ。アミはもう私と口をきいてくれなくなった。


「ご機嫌ね」とママは言った。

「うん、とっても」と私は微笑んだ。


 なんと、食後のケーキまで用意されていた。イチゴのショートケーキだ。オムライスのお皿を片付けると、ケーキを小さなお皿に盛り付けて、ホットコーヒーも一緒に用意した。もちろん砂糖たっぷり。私はケーキの上にのったイチゴを、お皿の隅に置いた。


 ショートケーキをフォークで切る。生クリームとスポンジが倒れかける。手ごろなサイズになったケーキを頬張る。スポンジとイチゴはかみ砕かれ、クリームは唾液に犯される。口の中で粉々に溶けたそれを飲みこむ。

とっても甘い。


「イチゴ食べないんだったら、私が貰っちゃおうかしら」とママはおどけて言った。


「駄目よ。これは最後のお楽しみだもん」と私は言った。


 そう。メインディッシュは、最後に味わって食べなくちゃ。


おわり

この記事が参加している募集

おうち時間を工夫で楽しく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?