春田すら

春田すら

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【短編】破壊衝動

 ベコン、という大きな音が聞こえた。夜の散歩中にそんな音が聞こえてきたのは、これがはじめてだった。堤防から河川敷を見おろすと、男が二人いるのがわかった。彼らの近くには荷物いっぱいの軽トラックが停まっていた。 私は通りすがりのふりをして、探偵みたいに彼らのようす観察した。ひとりの男は、軽トラックにもたれて煙草を吸っていた。もうひとりの男は、芝生に横たわっている本棚に金属バットを振り下ろした。ベコン、さっきの音だ。本棚が死んだ。 「最高!」とバットをもつ男が言った。煙草を吸う

    • 【短編】身内の不幸

       今日は木曜クラスのレポート提出期限日だ。 私が教鞭をとるそのクラスには三十四人の生徒がいて、そのうちの二十七人がすでにレポートの提出を完了していた。 彼らのレポートはすべてメールで届くから、私はお茶を淹れて講師室の椅子に座り、デスクにあるパソコンを起動させた。 パソコンが立ち上がるまで、湯呑みを両手にもって窓の方を眺めた。学食から仲良く出てくる男子生徒たち、校庭に植えられたケヤキの木、太陽の柔らかい光を隠した雲と、青空が見えた。四人の男子生徒の小さなつむじたち。私みた

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    【短編】破壊衝動