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暮沢剛巳「拡張するキュレーション」について

集英社新書の新刊。展覧会を企画する学芸員(キュレーター)に興味があり読んでみた。著者の専門は美術・デザイン評論だが、様々なテーマ(価値・文脈・地域・境界・事故・食・国策)の背景にある広義のキュレーション(価値を生み出す技術)を考察することで、知的な創造力としてのキュレーションの再定義を試みている意欲作だと思う。

取り上げられている博物館は参考になる。日本民藝館、ケ・ブランリ美術館・コンフリュアンス博物館(フランス)、インターメディアテク(東大)、ドクメンタV(ドイツ)、あいちトリエンナーレ、事故の博物館(福島県白河市)、万博(食のキュレーション)、大ドイツ芸術展と退廃芸術展(国策としてのキュレーション)、東日本大震災・原子力災害伝承館(福島県双葉町)、東京電力廃炉資料館(福島県富岡町)など。

また、キュレーターとしては、柳宗悦、ジャック・ケルシャシュ、岡本太郎、ハラルド・ゼーマン(インディペンデント・キュレーター)、北川フラム(地域アート)、ヘンリー・ダーガー(アウトサイダー・アート、北島敬三の写真、パラレル・ヴィジョン展)、バンクシー(アート・テロリスト)など。情報の収集と分類の考え方として、梅棹忠夫の知的生産の技術、川喜田二郎のKJ法を基盤にしていることも興味深い。

著者は、展覧会企画に関わる業務しての狭義のキュレーション、IT用語としての広義のキュレーションの共通項に注目し、「キュレーション」を「価値を生み出す生き方」にまで拡張することが目的と語っている。キュレーションの語源は「人の面倒を見る」ことで、それが西欧の王侯貴族のコレクションの整理・分類に変化していき、専門の管理者(学芸員)と博物館が生まれていった経緯も分かりやすい。終章で著者も語っているが、キュレーターの概念を拡張していくと、文芸の編集者(エディター)にも近い概念になることも納得がいく。

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