⑨ 世界の扉を開く鍵
ねえ ねえ
人間から人間がうまれるって
すっごく不思議
すごくへん
どうしてなのかな
すっごく不思議
すごくへん
どうしてだろうね
娘が
十三歳のある夜
発した言葉に
散らかった思いが
かたづいて
小ざっぱりとした部屋にいるように
せいせいとしている
ほんとうに不思議
同じ形でうまれるなんて
なぞってうまれる
やもりからやもりの子
とらからはとらの子
犬からは犬の子
ライオンからライオンの子
生み出されるもの
表層から表現が
火から火が
水から水が
土から大地が
そよ風から台風が
葉っぱから緑が
種から実りが
卵から命が
うまれる
そして また
ほら
うまれた
なにゆえに
あなたから
わたしがうまれたのか
わたしが
あなたから
また
心に波の立つ日
娘の言葉は
見事な石切りのわざで
波を切って
かろやかにはずむ
人間から人間がうまれるって
すっごく不思議
すごくへん
そうだ
娘よ
不思議ということ
生きている奇蹟を
娘に
言葉贈られ
新しいドレスみたいに
まとえば
あたらしいわたし
がうまれるのか
それが
うまれるということなのか
わたしからうまれた
娘
それから
息子
ふたりから
うまれる
未知のもの
ミトコンドリア経由
螺旋の進化を
のぼる
すっごく不思議で
すごくへん
身につける
しなやかな
ことばの護符
これからきっと
らくになる
生きることもらくになる
たぶんいまより
名に顕われる 賢者の鍵
どこのか知らない
身につける
あるとき
扉に出会う
鍵穴に
挿しこみ
まわす
夜の闇を蹴破り
開く
その向こうは
この世界 という
与えられる鍵は
扉をひらく
のぼり
立ちあがる
輝くしるし
あわさって
上へ上へ
海の上に
光の柱をつくる
柱 のぼれば
なにが 待っているのか
ゆけるところまで
光あるほうへと
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