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帰省する度に自分を嫌いになって帰る

無理やり1000円を渡され、朝からチケットを買わされた有料特急に乗り、はぁと大きくため息をつく。1人になった瞬間に沸き上がる、吐き気と割れそうな頭の痛み。やっと今回の帰省も終わった。終わった、と噛み締める。

実家に帰って自分の部屋に戻ると、過去の自分に出会い直す。毎日ギリギリの精神状態で朝から晩まで何かを頑張っていた私。何かを頑張ってないとずっと居心地が悪い家だった。

塾にも通わせてもらっていて、毎日ホカホカの美味しいご飯を出してもらっていた。周りから見るととても幸せにみえる環境だったと思うが、同時にずっと極限まで首を絞められているような息苦しさがあった。

社会人になっても運悪く関西配属になり、結局家から出たのは社会人3年目になってからだった。彼氏(現夫)を追う形で無理やり家を出て関東に引っ越した、躁状態の行動力に感謝。あの時に出ていなかったらまだこの部屋にいたかもと思うとゾッとする。

今は夫という名の心の安全基地を手に入れ、静かで穏やかな毎日を送っている。したいことをして、したくないことはしなくていい。そんな平穏な日々にも少しずつ慣れつつある。

それでもやっぱり自分の部屋に戻ってくると思う。何も頑張れない、何の成果も出せない、何に対しても意欲が長続きしない、今の自分には何の価値もないと。自分は何者にもなれなかったなと。中途半端なぼんやりした人間になってしまったなと。

大人になりきれず子供も欲しくなくて、かと言って仕事も頑張れなくて、誇れることが何も無い。30代になり、周りは家族のために生きたり、仕事で評価をされたりしてるのに。私なんのために生きてるんだろうな。そう、過去の自分が私に毒を吐いてくる。

毎回帰省しなければ良かったと思いながら帰路に着く。帰る前より自分を嫌いになって帰る。実家は物理的にも精神的にもとにかくうるさくて、耳も心もキュゥッとなる。

最終日。朝早いからご飯はいらないと何度も伝えたが、朝起きると大量の朝ごはんが準備されていた。混ぜご飯、焼き魚、お浸し、和え物、漬物と旅館顔負けだ。結局いらないという自分の気持ちより、食べさせたいという母の気持ちを優先し、もそもそとご飯を口に運ぶ。これは幸せなのだろうか。

最後の抵抗で、味噌汁はいらないと拒絶した。食べて貰えなかった味噌汁が段々と鍋の中で冷めていくのを見ながら、ほんのりとした罪悪感でまた自分を嫌いになった。

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