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傲慢と善良 読了

これはどこからのどの視点で共感したことを語るべきなんだろう、というくらい
登場人物全員が嫌いで、でも全員に共感できる内容だった。ただし、わたしは一応女性なので登場人物といっても女性限定になるが。

ここに出てくるのは本当にリアルで生々しくって嫌ぁぁ〜〜な女だらけだ。

自分がなく、傷つきたくないから逃げる真実。
真実をいつまでも囲っておきたいど田舎の毒母親。
夫の元婚活相手の婚約者を値踏みする真実の元婚活相手の妻。
男友達の婚約者を集団で排除しようとする美奈子。

一昨日からうっかり通勤電車も終点まで乗り過ごすまでに夢中になって読み進め
つい先程読了して、他の読者の感想も見て回ったがどの女性に共感するかはまったくもって人それぞれで興味深かった。

やはり真実が嫌いという意見が多かったのは納得するところで、控えめな女性が一転、打算的な女性に変わっていくところが男→女、女→女でこうも見方がかわるもんなんだなと読みながらなんだか感動した。
同性同士の方が見る目は厳しいというけど、それにしてもこの主人公はあんまりにも鈍感というか、絶望的に共感力がないというか、すべてに悪気がないだけに申し訳ないが結婚したら至る所で毎日イライラしそうな気がする。
間違いなく婚活女性が求めてやまないハイスペイケメンではあるんだろうけど。そして浮気しそう。(←偏見)

主人公、架という男性目線でえがかれる真実のすがたは、「いい子」そのもの。しかし物語は真実が行方不明になったところからはじまり、
真実の行方を探す架がそれまで真実に関わった人間と出会って自分の知らない真実のすがたがどんどん明らかになっていく。
主人公の目線で色んな面から真実のことを知っていくのだ。

もう真実が、痛いほどにリアルのこの現実にてSNSで婚活のことを赤裸々につぶやいている女性たちそのままなのだ。
とあるSNSにわたしと同世代の毒母持ちで、学生時代は異性のことは「まだお前には恋愛など早い」などぼんやり話をすることすらタブーだったのに
娘が妙齢にさしかかったとたん「なんで彼氏いないの?早く結婚しろ」と責められたことがある女性がいた。
真実の姉、希実がその親子関係を「共依存」と言って、いやそんな大袈裟なものではないけどと否定していたが、立派な共依存である。

とてもよくわかる。わたしも毒母親持ちで、このまま実家にいたらダメになると思い家を出たから。

そして毒母親の言う事を素直に聞いている妹にイライラする姉、希実の気持ちもよくわかる。
なぜなら現実ではみんながみんな、真実やわたしのように毒母親から離れられないから。
だいたいが愚痴をこぼしながら実家を離れないか、出たは良いが罪悪感に負け、なんだかんだ理由をつけて戻ってくる。

どうして家を出ないんだろう、もっとうまくやれないんだろう、できない言い訳だらけじゃん。と、同じ境遇の後輩にイライラしたことも思い出す。

夫の元婚活相手の婚約者を値踏みした妻も、自分は結婚していて今子供がいるという田舎の女の矮小なプライドみたいなものをびしびし感じる。くそリアル。

そして主人公の女友達美奈子とその仲間たち。
これにはもうあまりの嫌悪感にゾクゾクしてしまった。集まって男友達の婚約者を好き勝手に詮索して評価して笑い話にしてるあの感じ。定例化した飲み会にて

ねー、この間紹介された架の婚約者さあどう思う?
実はあたし好きじゃないんだよね、あーゆータイプ。いい子演じてるけどあれ絶対打算だよね。

あー思った!わかるあーゆータイプってさインスタでムチャクチャ自撮りとか架とのツーショット加工しまくって嬉々と載せてそうじゃない?架のフォロワー探したら居るかな?

とか言って、みんなであれこれとこれまで聞いた彼女の個人情報やら主人公の特性やらをたどってアカウントを特定したことまで想像に難くない。
女友達ズの言い訳がリアルだった。「だってたまたま見つけちゃったんだもん。全世界に公開してるんだからしょうがないでしょ」

へっ、よく言うよ。嘘つきはお前らもだな、と思った。絶対わりと真剣に探しただろ。
わかるよわたしも大嫌いな女はなんとしてもアカウント特定したから。(経験者かよ)

ひたすらひとりで粘着するわたしはともかくとして、こりゃもうみんなでワイワイやるのは楽しかっただろうなと思った。新鮮な酒の肴ができてさぞかし定例女子会は盛り上がったことだろう。
悪意ゼロパーな主人公に対して、女友達ズの悪意は5億パーくらいである。

実際、同性目線のくもりなきまなこで真実の嘘を見抜いて、ご丁寧に本人にも主人公にも言っちまう始末。ハイ出ました創作的女友達サイドのお決まり文句

「ねえ、あの子やめといた方が良いよ。」

イケメンハイスペな男友達をぽっと出の芋っぽい女がトンビに油揚げ的に持ってくの、クッソ面白くなかったんだろうな。たとえ自分が結婚してようがそんなの関係ない。
いつまでも自由な男友達でいてほしいし、他の女のものになるのは見たくないんだろう。

女なんてそんな生き物だ。

ただいっぽうで、困ったことにいい子演じてる女が気に食わないのもものすごくよくわかる。
いい子を演じてる自分のない女って、ほんとうに人間として面白くない。ぺらい。いつも何かに依存する気満々。いつも綺麗事ばかりだから。
かたることばがいつも誰かのもの。生き方もだれかのコピー。
そのくせ自己愛とプライドだけは無駄に高いから。
自分を守ることで生きる容量精一杯。
ちゃんとこれまで自分で何でも決めてきて、自分の足で立っているような女性は、ハ?何なのこいつ?気持ち悪い!になるだろう。

だけれども。だけれども女友達ズはその伝え方が何よりよくなかった。
おもに女性同士界の人間関係において自分がこう思った、嫌だった、と伝えるのではなく
マイナス情報において○○が○○って言ってたよ!と他人と他人の意見を結びつけ他人に言ってしまうのが1番よくない。
そのテンプレどおりに女友達は「架はあんたのこと100点じゃねーから、70点って言ってたから。あんたの前に120点の元カノいたから。婚活してたのも元カノ引きずってたからだかんなチョーシのんな何ぺらいウソついてんだアタシらにはバレバレだっつーの」

とか、とくに恋愛経験の乏しい女が聞きたくない情報これでもかと盛り込んできた。傷つける気満々。
あのあと架と真実は2人で話し合ってうまくいくと思った、とかゴニョゴニョおためごかし言ってたけど嘘だろ。(まあ結果的にはそうなったけど)
ひー性格わるー!!なんか女友達ズ、ナリは立派に大人かもしれないけど、中身はいじめっこ小学生女子そのままだなーこいつらとも思った。むかしっからカースト最上位だったんだろうな。

小説では主人公と真実がちゃんとそこに言及し合い、腹を割って話したが現実はそうはいかない。すれ違い悪意に尾鰭がつき、傷つきあったまま離れることの方が多いような気がする。

だから正直、ラストの展開にはちょっと意外というか
もっと正直に言って「ああそうだ、これ小説だもんな」と慌てて頭を切り替えてエンディングを迎え、まんまと涙した。
最初予定していたキラキラした式場ではなく、自分たちで選んだ神社で自分たちだけで挙げる。
とてもキレイなラストシーンだった。
ミステリ要素満載で展開していくので、これは一体どこにどのように着地するんだろう、と思っていたから、ある意味ホッともした。

あー、わたし婚活アカウント見過ぎてすっかりスレてしまったなーと思った。

というのも友達が長いこと婚活していて、この本を知ったのも有名な結婚相談所のカウンセラーさんが紹介していたから。
その友達に言いたいことはすべて小説の結婚相談所、マダム小野里が言ってくれてた。

それがそのままタイトルの「傲慢と善良」。

でも、主人公いわく百戦錬磨のマダム小野里とは「ピンとくる」の解釈がちょっと考えてもピンと来なかった。
それともわたしが思うピンとくる、と婚活がうまくいかない人が言うピンとくるはまったく意味が違うんだろうか。
最近蛙化現象が婚活界隈で都合よく意味が変わったように。

これまでの人生、直感でいつも何かを決断してきたわたしの「ピンとくる」というのは雷に撃たれたかのごとく「こ、これだーーー!!!!!」という、もう衝撃に似た言葉にできない唯一無二の感覚なんだけど。

なお今の夫とはお互いそれでスピード婚しました。(オチよ)

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