柔術の練習後に必ずほぐしてほしい筋肉
ブラジリアン柔術は道衣を引く競技なので、懸垂みたいな引くトレーニングをしたほうがいいです。
多くの引くトレーニングでは広背筋を鍛えるわけですが、体の外に広がっていくこの筋肉より大事なのが、体の中心に近い脊柱起立筋群や僧帽筋です。
特に上背部
・僧帽筋中部
・僧帽筋下部
・菱形筋
これらの筋肉は広背筋ばっかをガシガシ鍛えてると相対的に弱くなりやすく、結果、胸郭や肩の不安定性をまねき、肩や背中の怪我に繋がります。
私には柔術(特にガードゲーム)で道衣を引くと、よく怪我する部位がありました。それが上背部です。
競技中、いつも広背筋を使って強く引けるわけではありません。むしろ肩や上背部の筋肉の方が負担が大きいはずです。
ということで本稿では、上背部の筋肉の構造とケア、トレーニングを記します。
なぜ上背部が大事なのか?
上背部が大事な理由は腕の骨(上腕骨)が肩甲骨と連動して動くからです。
そして上背部の筋肉は肩甲骨につき、肩甲骨の動きに関与します。
特に
・小菱形筋
・大菱形筋
・僧帽筋中部
これらの筋肉は肩甲骨を胸郭に固定する役割があるため、とても重要になります。
肩甲骨のポジションが悪ければ、腕の動きは不正確になり、その分を肩関節や筋肉が代償して怪我につながっていきます。
上の図は菱形筋のイメージです。赤が小菱形筋、青が大菱形筋です。どちらも背骨から肩甲骨の内側を繋いでいます。
主な作用は
・肩甲骨の内転
・肩甲骨の下方回旋
・肩甲骨を胸郭に固定する
大小で作用は同じです。
僧帽筋
菱形筋が深部にあり、僧帽筋は表面にあります。赤が上部、青が中部、緑が下部です。こちらも背骨(上部は外後頭隆起)と肩甲骨をつなぎます。
作用はそれぞれ異なり
①僧帽筋上部
・肩甲骨の挙上
・肩甲骨の上方回旋
②僧帽筋中部
・肩甲骨の内転
・肩甲骨の上方回旋
・肩甲骨を胸郭に固定する
③僧帽筋下部
・肩甲骨の下制
・肩甲骨の上方回旋
です。
それぞれに大事な機能がありますが、僧帽筋中部は菱形筋と同じ肩甲骨内転と胸郭固定の作用があります。
※その他、菱形筋(+肩甲挙筋)は肩甲骨の下方回旋で、カウンターとして僧帽筋全部に肩甲骨の上方回旋があったり、菱形筋と僧帽筋中部との優位性の問題など書きたいことは多いですが割愛します。
また、
(肩甲骨の挙上やら回旋やら言われてもわからんぜよ!)
って方もおられるかもなんですが、本稿に大事な作用はなるべくわかりやすく後述します。それぞれの機能に興味があれば
『肩甲骨の上方回旋回とは』
みたいな感じに各作用を検索してみてください。
肩甲骨のポジショニング
実は広背筋も肩甲骨に付着しているので、菱形筋や僧帽筋中部と同じ、肩甲骨内転の作用がありますが、そこまで強くは働きません。
肩甲骨は胸郭(あばら)の上にペタっと張り付いてるのですが、このペタは肩甲胸郭関節(イメージ緑)という立派な関節です。
一般的に肩関節といえば、肩甲骨と上腕骨(腕)をつなぐ肩甲上腕関節(イメージ赤)です。
でも、肩甲胸郭関節も肩です。その他、胸鎖関節、肩鎖関節
肩甲上腕関節はボールとお皿の構造で、さまざまな角度に大きく動かすことができます。
しかし、これは肩甲胸郭関節が土台になってるからこそです。
腕を大きく動かそうとするときは、肩甲上腕関節と共に肩甲胸郭関節も動きます。難しいのは、動きながらも正しい位置で土台の役割をすることです。
肩甲胸郭関節でよくある問題は
①肩甲骨の動きが悪い
②肩甲骨が動きすぎる
です。
これらの問題があると、不安定な土台の上で動かなければならない肩甲上腕関節から先はパフォーマンスダウンかつ怪我のリスクを負います。
肩甲骨を安定させる筋肉
①肩甲骨の動きが悪い場合は、肩甲骨に付着する筋肉が固まってたり、癒着しているのが原因だったりします。肩甲骨につく筋肉は今回紹介した以外にもあるので、どこをほぐすべきかは人それぞれです。
一時期、話題になった『肩甲骨はがし』も癒着を解消して肩甲骨の動きをよくするためのものです。上述のように肩甲骨と胸郭は関節なので、実際には肩甲骨をはがすことはできないのですが、癒着がほぐれれば肩は動かしやすくなります。
②肩甲骨が動きすぎるは逆の問題です。
・菱形筋
・僧帽筋中部
・前鋸筋
これらの肩甲骨を胸郭に固定する筋肉が上手く機能してないと肩甲骨が胸郭から浮きます。
肩甲骨はがしとか立甲とか・・・のイメージで肩甲骨が動くことが良いと思われてる方もおられるかもしれませんが、動きすぎ=ハイパーモビリティーの関節は怪我を引きおこしやすくなります。
あくまでも、固まりすぎず、適正の範囲で動く関節が大事です。
前鋸筋は上背部ではないし描くのが難しいので省きたかったのですが、上半身のお尻と言われるぐらい(伝わらんでしょうが)大事な筋肉なので描きました。
肋(イメージ右)から肩甲骨の内側(イメージ左)に伸びる筋肉で、胸郭固定の作用を持つ筋肉の中では一番のりみたいなつき方してます。
上部と下部に分かれまして
・上部は肩甲骨を下方回旋
・下部は肩甲骨を上方回旋
・全体では肩甲骨の外転と胸郭固定
これらが作用です。
菱形筋、僧帽筋、前鋸筋の肩甲骨胸郭固定の作用が働くことが、腕を正確に動かすために必要な条件です。
トレーニング①
肩甲骨を動かすことが、これらの筋肉のトレーニングになります。
・肩甲骨の内転
・肩甲骨の上方回旋
・肩甲骨の外転
この3つの動きを鍛えましょう。
肩甲骨の内転は肩甲骨を寄せる動作なので、ベントオーバーロウイング(ベントロウ)などで鍛えることができます。
ベントロウはオーバーハンドグリップで行い、肘を45度ほど開いて引きます。バーを腰の方向に引いてしまうと、肩の伸展動作となり広背筋が強く働くので肩甲骨の内転が弱くなります。
アンダーグリップの方が胸を張りやすく姿勢を保ちやす人もいるかもですが、オーバーハンドグリップの方が肩甲骨を内転させやすくなります。
ベントロウは柔術家にはマスト種目といってもいいぐらいなのですが、股関節の可動性に問題があったり、ハムケツの筋力が弱いと姿勢をとれないことがあります。
この場合、ベンチにうつ伏せになってダンベルを引いたり、ケーブルマシンを利用することで代替えしてください。
スターナムチンニングや状態を反らしたプルダウンでも肩甲骨の内転を達成できますが、不効率極まりないので非推奨です。
トレーニング②
肩甲骨の上方回旋は胸郭上で肩甲骨が上向きに回ります。
腕を頭上に上げる動作で起こるので、ショルダープレスなどのオーバーヘッドプレスで達成できます。
これにより、僧帽筋(全体)と前鋸筋が鍛えられます。
おすすめは片手でのプレスです。イメージはジャベリンプレスになってますが、一般的にはダンベルプレスが推奨です。
トレーニング③
肩甲骨の外転は、肩甲骨を外にひらく動きです。前鋸筋の作用で上背部ではないですが大事なので載せときます。
プッシュアップ(腕立て伏せ)が優秀な種目です。
しっかり肩甲骨を外転させるまで押します。真下ではなく少し斜め前に押すのが良かったりします。
またプランクの姿勢から肘で地面を押すトレーニング(スキャプラプッシュ)もあります。上腕三頭筋の関与がなくなります。
肩甲骨内側の痛み
肩甲骨の機能不全による怪我は多岐に渡りますが、柔術キャリアの中で私を長年悩ませたものを一つだけあげときます。
それは肩甲骨内側のピリピリです。
上述のとおり、僧帽筋の内側(深部)には菱形筋があります。菱形筋の上には肩甲挙筋という首と肩甲骨をつなぐ筋肉があります。
菱形筋と肩甲挙筋のさらに内側(深部)には肩甲背神経が通ります。
この神経は首(第五頚椎)から菱形筋の下に流れてるのですが。菱形筋や肩甲挙筋が固まっていると肩甲背神経を圧迫して肩甲骨の内側に痛みがでます。
なにゆえ柔術でこれがおこるかというと、上背部が丸くなった姿勢で道衣を引くからです。
これにより、菱形筋や肩甲挙筋がストレッチされます。
相手の力に抵抗してるということで、これはストレッチポジションでアイソメトリックな筋トレをしてるのと同じですから、ほうっておくと筋肉が硬くなります。冬場とかよくなってました・・・
競技動作では、いつも良い姿勢で引けるとは限らないので、菱形筋や肩甲挙筋への日々のケアが大事です。
柔術以外ではウェイトトレーニングでも起こりえます。
高重量のデッドリフトでは上背部が背中負けすることがあります。原因は背中の弱さではなくハムケツのことがほとんどですが、背中が丸まれば肩甲骨は外転方向に引っ張られ、菱形筋や肩甲挙筋は肩甲背神経を圧迫しやすくなります。
こちらはフォームさえ崩れなければいいので、背中が丸くなる重量で引かなければ問題ありません。
肩甲背神経は第五頚椎から流れるので、首のポジションによっても痛みが出ることがありますが長いので省きます。
ピーナッツ
ということで、柔術の練習やデッドリフトのあとに、菱形筋や肩甲挙筋をほぐしておくことが大事です。
10年前、テニスボールを2個つなげて自作していた時代が懐かしいピーナッツ型のリリースツールを肩甲骨の内側に当てて(仰向け)筋肉をほぐします。
ちなみに今や100均にも売ってます。
注意点は肩甲骨はがしすぎ問題と同じく、ほぐしすぎで肩甲胸郭関節がゆるくなりすぎないように適度におこなってください。
Yusuke Yamawaki
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