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ソノコ【chapter61】

仏頂面、無愛想、不器用。

(Bばっかり。他にもあるかしら)ソノコは仰向けで天井を見つめ、みぞおちに右手を置く。キリキリと剣山で刺すようだった胃痛は、小雨のようなしくしくに変わりつつある。

不器用時々ブリリアント。

「愚問だな」に続く言葉はなく、マンションから最寄りのスーパーにつくと駐車場に車を停め、運転席から降り、ソノコを振り返ることなく足早に、スーパーの出入口へ向かう。食品が並ぶ棚と棚の間を、カートを押しソノコは歩く。

菓子棚の前、色とりどりのチョコレートを眺める、ふいに、しばしば、反射的に気持ちがざわつく、鼓動が強くなる。ふと横を見ると、すぐ隣に十歳に満たないであろう子供を連れ「買わないから」と、子供の顔も見ず尖った声を上げる女。駄々をこねず、泣くことも反発することもなくしょんぼりと、最近人気のアニメキャラクターが描かれた、菓子を見つめる子供。せめて言い分を聞いて上げて、気持ちを聞いてあげて、買わなくて良いから買わない理由を教えてあげて。ソノコは思わず鼓動を押さえる。弟の為と嬉々としてチョコレートを手に取っていた、白髪の、大きな身体の、骨ばった手を思い出す。甘やかしすぎだと苦笑を浮かべていた穏やかな笑顔。

「大丈夫か、もう帰ろう」

頭上から聞き慣れた声。見上げると、常の仏頂面に不器用な心配の笑みを浮かべ、立っている。そのブリリアント。そっとソノコの背中に、大きな手を置く。

「ありがとう、ごめんね。大丈夫よ」

ソノコは胸に当てた手を下ろす。そんな些細な輝きに救われているとだと思う。それでも、最近のリョウを見ていると、心のすみの黒でも白でもない気持ちがざわつく。運命。


みぞおちに手を置き、ソノコは胃痛の和らぎを感じる。ベッドの上、身体を起こすと時間を確認する。


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