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いつも、全部おいしかった。【chapter79】





三人でいた頃、タカシの彼女に会うという理由があったからお前と初めて会って、理由がなくても会うようになって、今、理由があってもなくても理由を作ってでも一緒にいたいと思う、これからもずっと。

俺と出会ったことを後悔してる?俺は後悔してない。今、目の前にタカシがいて極上の笑顔で「リョウくん大好きだよ」と言われても、それでも俺は「出会えたことを後悔していない」と、伝えたい。後悔していないし、もう、ごめんは言い飽きた。俺は幸せになっていいんだろうか?俺がお前のことを好きで仕方がないこと知ってる?お前を選んだ理由は好きだから、それ以上でも以下でもない。ソノコ、元気?運命ってなんだ?それで今、涙がでるのはなぜだ?

頬の内側を噛んでも涙が溢れてしまう。誰より優しいソノコなら腕を伸ばし、この涙を拭い、すぐ横に立ち頭を胸のなかに抱きしめてくれるはずだと思う。けれど、涙は拭われることなく、ソノコはケーキの向こう側静かに言葉を待っている。

涙がテーブルに落ちる。今、ケーキを食べたら塩甘いに違いない。誰より優しく強い人は、自分で涙を拭い喉に刺さったままの骨を吐き出すのを待っている。けれど、きっと今一言でもなにか言葉を吐き出せば、涙は強固なダムをぶち破り止めどなく流れるであろうことは考えずとも明らかだと思う。土砂降りのずぶ濡れだ。

「ソノコ」

テーブルのランダムな水滴、水玉模様は水溜まりになる。視線をわずかにずらせば花壇のようなケーキはぼやけ、歪み、混ざりあわない色彩は美しく万華鏡をのぞくようだと思う。涙の加減で伸びたり縮んだり、優しい美しさに慰められる。

「はい」

愚問。

「俺を好き?」

口から飛び出した骨が魚となり水溜まりを泳ぐ。やっと水を得てのびのびと緩やかに泳ぐ。腹に落とせず口から言葉になる時を待っていたのだ、自由に泳ぐことを待っていた。

子供が母親に自分を好きかとたずねるのは、返事がイエス以外にないことを知っているから。子供のような清潔な愚かさでただたずね答えがたとえ優しい嘘でも、信じる。ソノコの言葉をただ信じたらいい。

ビューティフル、ブルー、ブルース、ベイビー、バックボーン、ブラザー、バスケットボール。B、b、他にもビーは?

「好きよ。私はリョウくんを好き」

ビーラブド。

「愚問だよなって思いながら聞いてるんじゃない?

リョウくんがずっと知りたくて、リョウくんを苦しめていた謎はこれだったのね。リョウくんごめんね、うっかりしてたわ。でも私はきっとこれからもうっかりするだろうから、時々わからなくなったら何度でも聞いてね。その都度、何度でも答えるから。リョウくんを好きよ、リョウくんだけを好き」


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