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12200系ラストランツアーに見る「スナックカー」と同じ顔をした電車の話

近畿日本鉄道(近鉄)は、兼ねてより引退することを公にしていた12200系「スナックカー」のラストランイベントツアーを8月7日(土)に実施すると発表しました。

◆「ありがとう 12200 系特急 ラストラン乗車ツアー」を開催します!(近鉄公式 / PDFファイル)

◆惜別!ありがとう12200系特急車 ラストラン乗車ツアー(近鉄公式/PDFファイル)

このツアーは大阪上本町〜賢島間と近鉄名古屋〜賢島間を各1往復、それぞれの往路と復路の計4コースに分かれ、昨今の社会情勢から、1コースあたりの定員を少なく限定して実施されます。

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近鉄12200系 スナックカー
2018年6月撮影

代金は大阪上本町駅発が12,200円、名古屋駅発が11,520円です。

この金額について、大阪上本町駅発のコースは言わずもがな「スナックカー」の形式番号である12200という数字から設定されたものと見て間違いないと思われますが、名古屋駅発コースの11520という数字は現代だと結びつくものがありません。

営業キロの話

名古屋駅発コースが大阪上本町駅発コースに比べて安く設定されているのは、まず営業キロの違いがあります。
営業キロとは鉄道や路線バスにおいて運賃計算に用いられる便宜上の距離単位のことですが、大阪上本町〜賢島間の営業キロが174.9kmであるのに対して名古屋〜賢島間は144.8kmで、大阪からよりも30.1km短いため、運賃は名古屋発のほうが必然的に安くなります。

もちろんこの距離的事情は大きな前提として存在したと思いますが、恐らくは営業キロ以上に意図的に11520という数字を使った狙いがあると思われます。

ここで浮上してくるのが、かつて近鉄特急車群に存在した12200系と同じ顔でありながらスナックカーではない車両、ク11520形です。

「エースカー」

かつて近鉄には「エースカー」と呼ばれた特急型電車がいました。

1961年に製造された10400系は、Mc+Mcの2両編成を基本としつつ、状況に応じてTc車を増結することで、トランプのA(エース)の如く旅客の輸送量に応じた柔軟な運用が可能だったことから「エースカー」の愛称がつけられました。
1963年には10400系の改良型である11400系がデビュー。
これにより10400系を「旧エースカー」、11400系を「新エースカー」と区別する呼称も誕生しました。
新エースカーではモーターの出力が増強されたほか、10400系がMc+Mc+Tc+Tcの4両編成を基本としたのに対し、11400系ではMc+Mc+Tcの3両編成が基本となりました。

10400系は計4両×2編成の小所帯に留まりましたが、11400系は製造初年度の1963年、基本編成であるMc+Mc 2両編成のモ11400形(偶数車)+モ11400形(奇数車)×10本と、増結用Tc車であるク11500形×10両が一挙に竣工されたほか、1965年には同年に行われたダイヤ変更における特急列車増発に対応し、新たに基本編成×5本と増結用Tc車×2両が増備されました。

この時点では基本編成であるMc+Mcの2両編成が15本いるのに対し、増結用のTc車が12両しかいないため、11400系すべての編成が3両編成を組むことができないという数的ジレンマを抱えていました。

この状況を解消するべく生まれたのがク11520形というTc車です。

ク11520形は1969年に3両が製造されましたが、この時点で11400系の製造は既に終了しており、またク11520形が生まれる2年前の1967年には当時新鋭の特急電車だった12200系「スナックカー」の製造が始まっていたため、形式としては新エースカーと同じ11400系を名乗りながらも、車体の外観や座席は12200系とほぼ同じものになりました。

このことから、12200系ラストラン乗車ツアーにおける名古屋発コースの金額(11,520円)は、スナックカーと同じ顔をした車両であるク11520形の形式番号を踏襲したものである可能性が非常に高いと思われます。

古い車両であるため自分で撮影した写真が流石に無く、記事中でご紹介することはできないのですが、長きに渡って貴重なお写真を公開されているWEBサイト近鉄電車フォトアルバム様において、ク11520形を含む11400系の現役当時の写真を見ることができますので、是非ご覧になって頂ければと思います。
(車両解説>特急車>11400系(新エースカー)の頁 ※2021年6月30日確認)

この他にも例えばGoogleの画像検索などで「エースカー」や「ク11520」などのワードで検索してみると、12200系と同じ外観でありながら3両編成というとても違和感のある長さで走る車両の写真がたくさん見つかることでしょう。

ク11520形は車体が12200系と同じなため、登場時は標識灯上部に行先表示板を装備、貫通扉には羽根の特急マークを装着していましたが、後年、12200系がそれらを撤去し、貫通扉に電動式の行先表示器を装着した現在のスタイルに改造されると、ク11520形にも同じ改造が施されており、最後まで「スナックカーの分身」であり続けた印象深い車両でした。

これらの話ついて公式に言及された何かがあるわけでは無いのでいち個人の推測以上のものにはならないのですが、私としては十中八九この形式をもじって設定された金額であろうと考えています。

特に近年ではお世辞にも知名度が高いとは言い難い影の存在をここぞとばかりにもってくるとは、近鉄さん、最後の最後でとてもニクい小ネタを挟んでくれますね。

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