会社や組織で発生しているメンタル不調の1パターン
前書きと導入事例
平成14年頃から、メンタル不調者が30代や40代の比較的若い世代に急に増えてきました(参考:患者調査 e-Statで検索可能な情報)。
おそらくその要因は単一ではありませんが、現場で相談を聴く立場として対応してきた事例(月10~20件×10年くらい)から見えてきた一つのパターンについて、私見を書こうと思います(備忘録)。
次のような話、これを読まれる方はどのような感想を持つでしょうか?
『30代の一般社員が職場を異動して新しい部署に配属されました。それまでは実務を多くこなす「動く」仕事でしたが、異動後は改善計画や業務企画を立てるような、いわゆる「考える」仕事になりました。
異動して1年が経ちますが、どうにも企画や計画といった仕事が苦手で、半年が経過した頃から、上司からいつも叱責を受けるようになりました。
その後さらに半年ほどはどうにか仕事を続けてきましたが、徐々にエスカレートする上司からの叱責に耐えきれず、会社に出勤できなくなりました。
家族の勧めで心療内科を受診すると、「適応障害でうつ病になりかけてますね」と言われ、休業することになりました。』
こういった事例は残念ながら実在します。
以下、それぞれの言い分です。
一般社員
自分なりに頑張って企画書を作っていくが、毎回「そうじゃない。もっと考えて作らないと。もう1年は経験あるんだから!」と言われ、ロクに教えてもくれない。言われている内容自体は納得できるものだし、自分の実力不足とは思うが、毎回叱責されてばかりでとにかくつらい。
上司
通常、1年ほどで一人でできるようになる仕事を中々できるようになってくれないので困っている。もっと頭を使って考える癖がつくよう指導しているが、上達に乏しい。仕事を任せられないと自分(上司)の仕事も増えるし、出来の悪い企画書を見るとカッとしてしまう。パワハラにあたるような暴言や暴力はしていない。
他の人にも同じような対応をしているが、どうやら他の部署でも心の不調を訴える人が増えているように思う。最近はストレスに弱い人が増えているのではないか?
いかがだったでしょうか?
立場によって色々な想いがあると思いますが、この記事で書くのは、
①このような事例がどういった背景から発生しているのか、そして②最近はストレスに弱い人が増えているのか?の2点です。
①このような事例がどういった背景から発生しているのか?
結論から言えば、このような事例が発生するのは1.会社や組織を取り巻く社会的な変化と、2.そこに生じている落とし穴に気づきにくい という2つが大きいと考えています。
1.社会や組織を取り巻く社会的な変化
これは企業で働くベテランの人達は気づいていることですが、この数十年、自動化や機械化が進み、技術が発展する中で、会社組織では効率化や収益性アップのために「人件費削減を中心としたコストカットを行う」という動きを取ることが増えています。
こういった動き自体は自然な流れなのかもしれませんが、一方で人員削減の際の考え方に落とし穴があります。
2.そこに生じている落とし穴に気づきにくい
さて、わかりやすくするために1つの例をお示しします。
仮に、10人のスタッフを抱える組織で100の仕事をしていたとします。この場合、1人当たり10の仕事を行ったことになります。
この組織に、優秀なコンピューターを導入します。このコンピューターはスタッフ1人あたりの仕事を10倍効率化してくれます。
さて、このコンピューターを導入した場合、これまで通り100の仕事をするに、この組織の要員は何人に設定するのが効率的でしょうか?
ここでよく行われる計算は以下の通りです。
『1人あたり10の仕事を行うとして、コンピューターによって×10すると100の仕事ができるので、要員は1人でOK。』
実はこの計算に落とし穴がありますが、お気づきでしょうか?
どこが落とし穴か?
正解は以下の通りです。
「1人で10の仕事ができる」というのは、100の仕事を10人で行った場合の平均値です。
では、10人全員が平均値をとるような集団は存在するでしょうか?
答えは限りなく”否”です。
実際は実力として3~4の人もいれば、15~18のようなハイスペックな人もいます。場合によってはもっとばらつきが大きいかもしれません。
そしてこの100の仕事を1人+コンピューターで行ったらどうでしょう?
10以上の実力の人が配属されればハッピーですね。
しかし、平均が10ということは、半分くらいは平均以下ということです。
仮に偶然実力が6くらいの人が配属されたらどうでしょう?
コンピューターが効率を10倍にしてくれても60です。100に足りません。とんちのような話ですが、実際には現場ではこのようなことが起こっています。
②最近はストレスに弱い人が増えているのか?
さて、①では人員削減の結果現場で発生している落とし穴のお話をしました。
ではその結果として、何が起こるのか?
職場の管理職が①の落とし穴に気づかない場合、管理職側としては、「この100の仕事は1人でできるはず」という認識をします。
しかし実際には、偶然にも(といっても確率は1/2ですが)実力10未満の人が配属されると、管理職側の認識と現実の間にずれが発生します。
このずれは、管理職に焦りと不安を抱かせます。
そして最初に取りがちな行動は、「部下の尻を叩く」という行動です。叱咤激励して部下に能力以上の仕事を求めます。
部下の実力が7とか8とかあれば、残業や本人の頑張りでどうにか結果を出せるかもしれません。しかし、運悪く実力が4や5だったらどうでしょう?
もし、管理職側が「本人が努力すれば10まではいくはず。」と考えてしまうと中々実力が向上しない部下に対して、徐々に感情的にイライラした対応を取るようになるでしょう。
その結果、それに耐えられなくなった人からメンタル不調を起こします。
ここで注意すべきことは、実力が低い人というのが、「何事に対しても実力がないというわけではない」ということです。
最初に紹介した事例でいえば、あの30代の一般社員が人として他者より劣っているわけではないのです。むしろ手足を動かす実務に関しては処理スピードが速く、事務処理能力は平均以上だったりすることもよくあります。
最近は自動化や機械化で仕事の効率が格段に上がった一方で、一つの仕事にあてられる人数はどんどん減少していて、人間側の得意不得意が如実に成果に現れるようになってきたといえます。
このような社会背景では、人の能力を平均値で見ていると組織としても大変な損をしてしまいます。人員を減らしていく一方で、適材適所や社員の得意・不得意をいかに明確化して仕事とマッチングしていくかといったニーズは高いのではないかと思います。
おわりに
この話は会社や組織でメンタル不調者が発生するパターンのほんの1パターンに過ぎませんが、こういった落とし穴に気づく人が少しでも増えるといいなと願っています。
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