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会社から「老人ホームへ入る為に働く」と正式に認められた話

『今の仕事は嫌いじゃない。向いてるかどうかは、わかんないけど』

先日高校時代からの親友と久しぶりに会った。仕事で嫌な事が重なって誰かと、たわいもない話がしたかった。そして最近の近況とか、両親の事とか、自分たちの未来とかそんな、たわいもない話をした。でも長い付き合い彼女は、お見通しだった『それで本題は?』と聞いてきた。
私は最近仕事で、嫌な事があった話をした。仕事で嫌なことといえば、間違えなく人間関係だ。
仕事内容に不満はない。仕事は形変われど、どこにいっても一緒だ。会社が求めることをする。私にとって仕事とは、ただそれだけだ。そして冒頭の話をしたのだ。するとその話を聞いた彼女が言った。

『続いてるってことはね、多分その仕事が向いてるってことだよ。向いてないと本当に辛いからね』

私は、何度か転職をしている。はじめ派遣会社で添乗員をしていたが、色々あって<簡単に言うと所長がどんずらした>そのまま何故か、その派遣会社で所長職を経験した。人材育成と仕事のフォローと営業をこなした日々は、とても充実していた。その後色々あって<会社同士の諍いに巻き込まれ>メンタルダウン直前までいき自分を守る為に転職を選んだ。

次は、たまたま求人のあった美容室の受付事務と経理をした。スタイリストの仕事に合わせてお客様をキャスティングしシャンプーやドライなど他のスタッフに振る。たまにお客様のスタイリストを変更したい要望やクレームを聞きながら満足してもらえるよう配慮する。そんな仕事だった。でも何年かして気づいた。この業界は結局、美容師の資格を持たないと、どんなに楽しくても未来がない。その頃私はすでに20代後半だった。やばい人生詰んできた。そう思って仕事をやめた。

そして、本当にやりたいことを探す事にした。バイトで添乗員をしながらやりたい仕事って、向いている仕事ってなんだろうと考え続けた。色んな人に話を聞きながら、仕事で毎日全国各地へ赴いた。そして、気づけばもう2年が経っていた。
詰んできたと思ってから2年間、やりたい仕事は見つからなかった。気づけば30代。人生詰みまくったと思っていた。結婚も転職も30過ぎると一気に選択肢が減っていくと思っていた。そして、そろそろ地に足をつけて働きたいと思った。2年かけて見つけた答えは、地に足をつけて働くことっだった。答えというより、今しなきゃと思ったことなんだけれど……

正直、やりたい仕事が見つからないと言うよりは、今まで振り返っって嫌な仕事がなかった。居酒屋の店員も、コンビニのレジ打ちも、添乗員も、派遣会社の所長も、美容室の受付事務も。嫌な事がないと言うことは、好きなこともないと言うことなのかもしれない。

そう思い始めた頃、旅行会社から『うちでバイトしない?』と声がかかった。
添乗員としていつも全国各地に飛び回ってた私は、言葉通りまず地に足をつけて働く事にした。毎日同じ家に帰って、同じ会社に通って、定期的に定額の保証されたお給料をもらう。これが私の考える地に足をつけると言うことだった。

とりあえず地に足をつけた私は、旅行会社の仕事を始めてした。添乗員とは全く違う仕事だった。発送・海外旅行の諸手続き・コールセンター・クレーム処理・国内旅行の営業補佐・旅行企画等。色んな仕事をした。どの仕事も、やっぱり嫌じゃなかった。嫌だったのは、相変わらず人間関係ぐらいだった。どの仕事も嫌じゃないと言うことは、取り留めて好きでもなかった。ただ仕事なだけだった。

今までしてきた仕事が、たまたま向いている仕事ばかりだったと言われれば、そうなのかもしれない。私は、どの仕事も本当に嫌じゃなかった。与えられた事・求められるままに演じる。ただそれだけだったと思う。

そんな私が、結局どうなったのか。私は今、その旅行会社で正社員として働いている。
やっぱりその仕事向いてたから正社員になったんでしょ!って思うかもしれないが全く違う。私が、この会社で正社員になった理由。それは、不得意な人間関係だ。バイトで入った私は、どの仕事も嫌じゃなかったので、人が嫌がる仕事も普通にこなした。するとだんだん正社員と同じような責任ある仕事を任されはじめた。
その責任ある仕事も嫌じゃなかったので、普通に仕事としてこなしていた。すると他の正社員から、やっかみを受ける対象になってしまった。そこで苦手な人間関係が始まる。大体そう言う嫌がらせをする人は、自分の立場をとられたと思っている人ばかりだ。不気味の谷現象と変わらない。

不気味の谷現象とは、ロボットに対する嫌悪感のこと。
人は、ロボットに対して、最初嫌悪感を抱かない。おもちゃのわんわんロボットに、『可愛いい』と思うのと一緒だ。けれどロボットが、だんだん人間に近くなっていくと、そこに嫌悪感が生まれる。自分の仕事を取られるとか、居場所を侵食されるなどの感情が生まれ、それがロボットに対しての嫌悪感となる。
例えば、レジ打ちがセルフになりはじめの頃。レジ打ちを仕事としている人達は、『自分が首を切られるかもしれない』『こんなロボットが出来たから自分達の仕事がなくなる。』そんなことを考えて、ロボットに嫌悪感を抱いたのではないだろうか?
同じロボットなのに、わんわんロボットには抱かない感情を、セルフレジマシンに抱く。これが不気味の谷。ロボットが人間に近くなると訪れる谷である。
ちなみに、この谷を越えると、それが当たり前になり嫌悪感はなくなる。

と言うことで私は、一部の正社員さんにとって不気味なロボットだった。そして、不気味なロボットの私は、この人間関係がとても苦手だ。私の3倍ほどの年収があるのに、私より予算の少ない正社員さんからの嫌がらせを受けた私は、会社を辞める決意をした。
いい機会だった。バイトのままだと退職金がない。今の会社で正社員になるには、挙手制ではなく、管理職の推薦が必要だった。
このままの待遇だと、地に足をつけた老後がみえなかった。薄々気づいてた老後問題について、おかげで決着がつけられた。
そう思ってすぐに、転職活動を始めた。
そんな時、会社から正社員採用の話をいただいた。私を推薦してくれる人が3人いたそうなのだ。給料が今の3倍になるなら受けといてみようと思い正社員採用試験を受けた。面接で私は、正社員になりたい理由を聞かれてこう答えた。
『独身の私は、これから先、今のままじゃ老人ホームに入れないので正社員を希望しました。』
笑われたけれど、本当のことだから仕方ない。そうして会社から、私の仕事は老人ホームに入るためだと認められ、晴れて正社員となった。

と言うわけで私は老後、地に足をつけて生活する1歩を踏み出した。
この後、不気味の谷現象はもう少し続くのだけれど、谷にも終わりがある。結局今の仕事が向いてるかどうかわからないまま、今に至る。
まさか学歴も、取り柄もない私が、日本で5本の指に入る旅行会社で正社員になれるだなんて思っても見なかった。私に関わってくれた人が、みんないい人なんだ。本当に皆様のお蔭様である。人間生きてると何があるかわからないものだ。

私の親友が言うように、続いてると言うことは向いていると言う事なのかもしれない。この仕事を生涯続けていくかどうかもまだわからない。でも今のところ一番長く続いてるのが、今の会社だ。一応いつでも転職できる準備はできているつもりだ。でも今のところ辞める予定はない。それは、好きだからではなく嫌じゃないからだ。

だから今やりたいことがわからないとか、好きな仕事を探しているという人に、私は何かヒントを伝えることができない。私はただ、流れに流されていただけだから。嫌な仕事がなかっただけなのだから。

逆に言うと私は、人間関係が一番苦手だ。正直向いていないと思う
そう考えると、私に向いていない仕事と言うのは、『人間』をすると言う事になる。
そう考えるとしっくりくる。
向いてないな私。『人間』と言う仕事。


#この仕事を選んだわけ

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