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(「夜珠の雫」より)


 人は坂道を転がり落ちながらも、空を見上げる瞬間がいくつもある。その度に落ちていく悲哀と空の青さが心に沁みるのである。そうして私は空を見上げるたびに一輪の花に想いを馳せる。
 空に花は咲かない。いつだって地面から顔を覗かせているばかりなのだ。
 その花は渡り鳥達を妬み、羨み、降りてきた羽根に話しかけては自らの境遇との差に、根を少しずつ枯らしていくのかもしれない。
 けれど私には鳥よりも、根腐れした花の方が大空の自由さを思わせて惹かれるのである。

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