キャプティブってなに?節税の仕組み

キャプティブという言葉をご存知でしょうか。

簡単に言うと海外に再保険会社を設立することによって大幅な節税対策をするということです。

これを知っていれば節税対策をしている人、これから考えている人の節税の手札が増えることでしょう。

通常の損害保険の流れ

簡単にいうと海外に再保険会社を設立することによって大幅な節税対策をするということですが、実際の仕組みは複雑です。そのためまずは、通常の損害保険の流れを理解していただきましょう!

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・リスクヘッジのために損害保険へ加入する
例えば、不動産経営者など多くの不動産を抱えているひとであれば火災保険や地震保険などに加入します。

この時、A損害保険会社に年間1,000万円の保険料を支払っていたとします。保険料を支払う代わりとして、国内のA損害保険会社はあなたに1億円の補償を設けることになります。

・損害保険会社は再保険に加入する
ただ、この時A損害保険会社は国内にある別のB損害保険会社に再び保険を掛けます。これを再保険と言います。

なぜ、A損害保険会社は再保険をかけるのでしょうか。これは、大災害が起こったときに破綻するからです。例えば、日本で大震災が起こると非常に多くの家が火災にあったり、自身で建物が倒壊したりします。そうなるとA損害保険会社は保険料を支払えなくなり、倒産の危機に陥ります。

こうしたリスクを回避するため、保険会社も保険に加入します。この時再保険によって、国内のA損害保険会社は国内のB損害保険会社(再保険会社)に例えば900万円を払います。そうなると、9,000万円の補償を得ることができます。

これが、世の中で行われている一般的な損害保険でのお金の流れになります。

キャプティブとは

キャプティブによる保険では、先ほどの「国内B損害保険会社を使わずに、自分の子会社を利用しよう」と考えます。

通常であれば、国内A損害保険会社は国内B保険会社に再保険を依頼します。このとき、国内B損害保険会社に再保険を依頼してもらうのではなく、再保険の契約を海外に存在する自分の子会社(再保険用の会社:キャプティブ)へ依頼するようにしてもらうのです。

そうなるとお金の流れは以下のようになります。

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しかし、当然ながらこの状態のままだと実際に大災害が起こった場合、国内A損害保険会社は海外にあるあなたの再保険子会社へ補償の請求をしてきます、そうなると、確かに保険料の支払いは受けているものの、それを保証するための支払能力はありません。

そこで、海外にあるあなたの再保険会社(キャプティブ)は「海外に存在する保険会社(再保険会社)」へ再び再保険をかけます。

日本に比べて、海外では圧倒的に安い金額で高額な補償を得ることができます(これは海外の保険会社がリスクの高い金融商品に投資することが認められているため、少ない保険料で高額の補償をすることができます)。例えば、200万円の保険料を納めることで、9,000万円の補償を得ることが可能になります。そこで、あなたのキャプティブは海外の再保険会社に200万円を支払い、9,000万円の補償をもらうようにします。

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そうすると、「国内B損害保険会社へ再保険をかけたときとまったく同じ額」の補償を得られるようになります。そのため、大災害が起こったとしても問題なくあなたのキャプティブはお金を払えるようになります。

このとき国内A損害保険会社から900万円の保険料を受け取り、海外の再保険会社へ200万円を支払う(保証は9,000万円)ことになります。その結果、差額である700万円が海外にあるあなたの子会社(キャプティブ)に貯まって行くようになります。

海外にあなたのキャプティブを作ることによって、国内B損害保険会社と同様の再保険の仕組みを作りながら、海外子会社にキャッシュを貯めることができるという節税方法になります。

通常の損害保険契約の問題点

・多様化するリスクに備えることができない
日本の保険契約は基本的に最低限のリスクをカバーできるようにしかなっていません。つまり、企業が多様化している時流に合っておらず、何か事故が起きた際に、支払われない可能性が出てくるのです。

・被害が激甚化する感染症や地震、津波、噴火等のリスクに備えることができない
今回のコロナ禍で免責事項で保険料が支払われないということが露呈しました。日本の保険会社ではリスクをカバーすることができないのです。

・保険会社のコストが高く、保険料は世界的に見ても高水準
再保険会社に直接日本企業が契約することができれば、多くの企業はコストメリットを享受できるにも関わらず、日本の保険業法上できないという業界の法律に守られているのです。これらのことは、保険会社からするとブラックボックス化したい内容であり、保険業界に限らず、どの業種でも仕入れ値を教えたくないというのが本音かと思います。

キャプティブを設立する3つの理由

1.世界の保険にアクセスできる(多様化するリスクをカバーすることができる)
キャプティブを設立すると、自社の再保険会社となってリスクの引受が可能になります。キャプティブを再保険市場へのハブとし、様々な世界の保険商品を選択していくことが可能になり、リスクの多様化に備えることができます。

2.コストメリット
今まで国内A損害保険会社に支払っていた契約がキャプティブを設立することで、キャプティブに再保険料を出してもらうと、今までは何もなければコストだったものが、キャプティブに収益が生まれることになります。

3.経済効果(収益性)やコントロール領域の拡大、優遇税制の活用
キャプティブで引き受けるリスクや再保険会社へ移転しているリスクなど、バランスをとることで、事故時の経済被害を最小限にしたり、翌年度以降の再保険料の交渉など、自社でコントロールすることが可能になります。

タックスヘイブンでキャプティブ会社を作る

たとえ海外で会社設立したとしても、そこで得た利益については海外(その国や地域)で税金を支払う必要があります。しかし、タックスヘイブンの地域についてはほとんど税金がかからなくなります。そこで、タックスヘイブンでキャプティブ子会社を作ります。

タックスヘイブンとしては、香港やシンガポールなどが有名です。ただ、キャプティブについてはミクロネシア連邦やハワイなどで作るのが一般的です。なぜ、ミクロネシア連邦やハワイなのかというと、これらの国々でのキャプティブ設立が有利であり、その方法が研究しつくされているからです。

アメリカは非常に税率の高い国として知られています。ただ、ハワイでは2017年にキャプティブ税法の改正があり、保険収入量が年間220万ドル(約2億2,000万円)であれば非課税になりました。

特に中小企業であれば、2億円を超えるような保険料収入をキャプティブで出すことはないです。そのため、キャプティブによる保険料収入が実質的に全額無税だと考えれば問題ありません。

キャプティブが成立する、国内企業の法律

ただ、この時に不思議に思わないでしょうか。国内にあるA損害保険会社はなぜ、わざわざ保険料の高い国内のB損害保険会社(再保険会社)に依頼するのでしょうか。海外にはより安い保険料で高額な補償をしてくれる会社がいくらでもあるのならそうした海外の保険会社へ直接依頼すればいいような気がします。

しかし、日本の法律によってこれができなくなっています。保険業法では、「日本に支店を設けていない海外保険会社に対して、直接契約はできない」とされています。

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当然、損害保険会社は海外キャプティブの仕組みを知っていますし、海外にある保険会社の王が安い保険料で高額な補償をしてくれることも知っています。しかし、法律が邪魔をしてできないのです。

一方であなたが設立する再保険会社であれば、当然ながら日本に本店があります。海外のキャプティブはあくまでも子会社です。日本に本店があるため、A損害保険会社はあなたのキャプティブに再保険を依頼することができます。

また、キャプティブに対抗するために国内のB損害保険会社は保険料の値下げをすることはできないのでしょうか。これについても、実は不可能になっています。保険料の三原則というものがあり、以下のようになっています。

1.契約者の利益を保護するために「高すぎず」
2.保険会社の担保力を確保するために「低すぎず」
3.契約者間の公平を確保するために「不当に差別的であってはならない」

要は、保険料を下げすぎてはいけないというものです。日本国内の保険会社は法律によって守られており、海外の保険会社が参入できないようにしています。この一つに、保険料の値段が安すぎてはいけないというものがあります。

キャプティブにたまったお金を95%で国内へ還元

こうしてキャプティブにたまっていったお金はどうするのでしょうか。

実は海外の子会社にたまったお金は95%という高い割合で本社(あなたの会社)へお金を戻すことができます。これには「外国子会社配当益金不算入制度」というものが存在します。

外国子会社配当益金不算入制度では、「日本に存在する親会社が、海外の子会社から配当を受ける場合、配当の95%が益金不算入になる」とされています。つまり、1,000万円のお金をキャプティブからあなたの会社に戻した場合、税金は50万円だけであり、残り950万円のお金を手にできるようになります。

保険料の支払額が多い会社であるほど、税金の支払いを抑えながら会社にキャッシュを残せるのでROE(自己資本利益率)は上昇し、会社の経営が安定するという大きなメリットがあります。

大企業も実施しているキャプティブ

キャプティブは日系企業の中でも大企業が採用している方法になります。それが以下のような会社です。

アルプス電気、出光興産、伊藤忠商事、エプソン、大阪商船、オリックス、花王、近畿日本ツーリスト、コスモ石油、サンスター、サントリー、シチズン、ジャパンエナジー、商工ファンドスバル、住友商事、全日空、損保ジャパン日本興亜、武富士、東急観光、東京海上、東京電力、トヨタ自動車、日産自動車米国など

キャプティブ設立にかかる費用や維持費

いくらお金が初期費用として必要になり、維持費がかかるのでしょうか。

・シングル・ペアレントキャプティブ
一般的なキャプティブがシングル・ペアレントキャプティブになります。これはキャプティブ子会社を自前で運営することを指します。

節税メリットが大きく、再保険を掛けるときの金額を含めリスクマネジメントを自由に設定することができます。

しかし、シングル・ペアレントキャプティブを設立するためには、毎年利益が2億円以上あるような企業でなければ意味がありません。

・グループキャプティブ(アソシエーションキャプティブ)
自前ではなく複数の会社と共同してキャプティブを運営するものがグループキャプティブです。

不動産でも一つの部屋を借りると非常に高額な家賃(維持費)がかかります、ただ、一つの部屋を複数企業でシェアするようにすると、シェアオフィスという形になって維持費は非常に安くなります。これと同じ原理で、何社もの会社でキャプティブを運営するようにするのです。

・レンタキャプティブ
既にキャプティブとして運営している会社に依頼し、一部の機能を貸してもらい、自らのキャプティブを運営することをレンタキャプティブといいます。

グループキャプティブの場合、共同で一つの会社を運営することになりますが、レンタキャプティブであれば、初期費用を不要にし、維持費を抑えながらも、一般的なキャプティブを運営するのと同程度のメリットを得られるようになります。これであれば低い金額でキャプティブを運営できるようになります。

キャプティブの採用方法と問題点

・専門のエージェントへの依頼
キャプティブは節税メリットが大きいものの、素人エージェントに依頼すると節税できないどころか、税務調査で否認されるようになってしまいます。

目的によって作るべきキャプティブの会社の形態が異なります。そのため、そうした提案をくみ取ったうえで提案してくれるエージェントが適切です。

・税理士の協力が必要
また、当然ながら節税に精通している税理士の協力も必要になります。

まとめ

キャプティブは個人でやることはほぼないと思いますが、非常におもしろいう仕組みだなと感じて記事にしました。

情報や価格差を利用したリスクマネジメント方法で時代とともに変わっていきそうではありますが法律を変えなくては変わらない領域であるため利用できるシチュエーションになったら有識者に相談しようと思います。

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