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欠けても、淡く照らす月のような生き方を

曇りない、中秋の名月のかけ始め。
「こころのふるさと」と呼ばれる場所に近づきながら。
ちょっとした人生が変わる瞬間の中にいた。

■変わり始める人と季節

9月。
まだ、日差しは夏のように照らしつつも、
隠れた時には秋が冷たい風になって近くまで来ていた。

「長期休暇にどこにいこう?」

仕事での長期休暇が近づいていた。
今までの自分だったら、サーフィン合宿と題して藤沢にいっていただろう。
海の近くのホテルを予約して、サーフボードを持ってこもる。
朝方、海を見ながらサーフィンをして、
夕方には海岸通りを散歩する。
夜には紙とペンでその時思ったことをつらつらと書いて。
そんな休暇が想像できた。

ただ、そんなことに心動かない自分がいた。

(動かん…)

こころと行動が直結せずに動かないのだ。
いつもであれば心が動けば、身体も動く。
この時は今までと違っていた。

そんな中
地図をずっと見ていたら
ある地点で目が止まった。

伊勢

三重県にある伊勢神宮のことを思い出した。
一度は訪れるべき場所として有名なあの「お伊勢さん」だ。

(違うことをしよう)

気づいたら引き寄せられるように伊勢神宮への旅行券を予約し始めた。

■旅の身支度、心支度

日に日に近づく旅をよそにプランは何も決まらなかった。

(心が動かない)

心のコップが空っぽになっている自分がいた。
今までだったら、ワクワクしていろいろなことを調べていた。
ただ、今回は何も決まらない。

身体は動く。
毎日のようにランニングをして、日課のようにトレーニング。
そして波がいい日は朝早くからサーフィンに出かける。
どんな時でも決めたことをやり続けて、行動に移す自分はいた。

ただ、心は動かない。

決まっているのは往復の新幹線の時間と宿、山奥のカフェ
伊勢神宮に行くということのみ。

「何しよう?」

何も決まらないプランではあったが
いっそのこと決めないで行こうと決めた。

今までのような固く強い決断ではなく、淡く柔らかい決断。
けどそんな自分でもいいかと思った。

■本と約束と月と

旅に出る少し前。
2人の人から二冊の本を紹介された。

一つは時間の本
もう一冊は運の本

それぞれ全く違う本ではあった。
ただ、読んでいくうちに心に満たされていく何かがあった。
それは今までの重く、熱いものではなかった。

元々あったもので軽く、あったかいもの。

今まで人の幸せのためと生きていた自分にとって
今までとは違う気持ちだった。

ただ、それが言葉にできない。

なんで言葉にできないのかはわからなかった。
ただ、変わり始めているのは確かで。
言葉に表せることだけが全てでもないし、
言葉にできなくても感じ取ったことを信じた。

そんな中
知り合いとオンラインで話すことになった。
その人とはまだ直接お会いしたことはないが
一年以上前からの知り合いだ。

柔らかさの中に真心がある
淡い色をした透き通った水晶のような人だ。

いつも時間を忘れて話している。
なんでも話せる人だ。

その日も
近況報告や内省、今考えていることなど取り留めなく話していた。
気づいたら日付が変わるほどの時間が経っていた。

最後にふと
「関西行くので予定合えば会いませんか?」
と言葉にしている自分がいた。

運が良く、会う約束ができた。

そしてその日は終話。
その後、一通の連絡がきた。

「今日、中秋の名月なのご存知でしたか…!とっても綺麗なのでお時間あればぜひ」

ベランダに出て、空を見上げたら月は
「ここにいるよ」
とはっきりと存在を示していた。

同じくらい、
月光に照らされた木や建物、自分の淡い影にも目がいった。

誰かが光っていることは同じくらい誰かを明るくしている。
月が太陽の光を受けて光っているように、
自分も誰かの光を受けていたな。

気づいたら心が少しずつ動き始めていた。

■山奥のカフェと都心にいた夫婦

旅の日。
なぜか朝早く起きてしまい寝れなかった。
そのまま少し身体を動かして、準備。
薄暗い中、家を出た。

新幹線に乗る時には外は晴れ、夏のような日差し。
本を読んでいたら名古屋についた。

名古屋からは車で1時間ほど。
慣れない道と山奥までの道を進んでいる。

途中で白のプリウスにも出くわし、ずっと後をつけられる。

(おいおい…まさか…)

心の動揺と少しの冷や汗をかきながら、無事に目的地に着いた。

入り口で待っていたのは一人の男性
オーナーの方だった。

オーナーに案内されて向かった先には
自分の存在を本当に小さく感じるほどの緑。
目の前に山脈だとわかるくらいの山の脈。

精進料理を出しているそのカフェでは
自然の流れを意識したランチを食べた。

舌触り。食感。匂い。味。

どれも素朴ながら、食物の「らしさ」「強さ」を感じるものだった。
都会では感じ取ることのできない、ありのままの食事だった。

食事の途中、
オーナーと話していると元々東京に住んでいて住んでいる場所が近く、
盛り上がった。

そんなところからなんで岐阜の山奥に引っ越してきたのか?
と話をした際に

ここでカフェを開きたかった。

そんな言葉が返ってきた。

東京だと満員電車だったり、忙しいことばかりだし。
もう満員電車と無縁の生活ですね笑

東京では考えられないような生活。キャリアとは無縁の人生。
けれども夫婦の顔は充実していて、
「次はどんなことをしていこうか?」
と未来のことをずっと考えていた。

今ある選択肢だけが全てではない。
選択肢は工夫次第で自分で作ることができる。

そんなことに気づかせてもらう時間だった。

■遠かったはずの近い視線

山奥のカフェを後にして、
次は関西に行くことにした。

電車は決めていなかったので、特急券を買い、電車へ。

約2時間近くの中、Kindleを片手に読書。
途中電池が切れそうになり、充電しようとしたが、関西と関東の規格違いでアダプターが入らないという事件が起きた。

(嘘でしょ…)

あっけなく電池は切れてしまった。
読書できない後の時間、朝早くから動いていたからか気づいたら寝ていた。
そして無事、駅に着くことはできた。
だが、連絡が取れないことだけが不便だったので、
途中で充電器を買い、スマホを生き返らせた。

駅の複雑さに驚きつつも
多分ここにいればいいだろうという場所に落ち着き、
肉まんを頬張りながら電池の少ないスマホを見る。

無事に連絡がつけるようになった待ち時間。
緊張している自分がいた。
ただ、その緊張は不安というよりもワクワクした緊張だった。

時間が近づく。

ぼーっとスマホを見ている中、
じーっとした視線を感じた。

視線の先に待ち合わせていた人がいた。
画面越しと変わらないイメージしていた柔らかい雰囲気だった。

軽く挨拶をして、
ダンジョンと呼ばれている駅を周りながら
話ができそうな場所についた。

対面になった時

この角度。やっといつもの酒井さんや。

と言われたのを覚えている。
俺もそう思っていた。

ずっと画面越しでしか会っていない存在が目の前にいる。

不思議な感覚だった。

最近話したばかりなのに、尽きない話題。出てくる言葉。
内省した内容について。おすすめの場所。今日行ったカフェの話…

気づいたら「蛍の光」が流れ、閉店の時間になっていた。
音は聞こえず、時間を忘れたままにしたかった。
そのくらい楽しい時間を過ごしていた。

帰り道。
電車がくる少しの時間だけ、一緒にいれると思っていた。
ただ、思うようにはいかないのが今回の旅。

調べたはずの電車の時刻表がどこにも見当たらない。

「「なんで?笑」」

と戸惑いながらも2人して笑っていた。

ずっと物理的な遠い距離があったなんて思えないくらい
心の距離は近く感じた。

■場所と時が違っても変わらない星

宿への帰り道。
事件が起きた。
朝から疲れていたからか電車で寝ていて乗り換えの駅で電車を間違えてしまったのだ。

調べた電車は終電。
間違えれば見知らぬ土地で一人きり。

どうにかして調べて近くまで戻ることができた。

(どうしよ)

ただ宿までの距離は30km
歩けば5時間近くかかる距離をどうするか迷い、途方に暮れていた。

とりあえず手当たり次第の方法を調べ、タクシーを一台呼ぶことができた。

タクシーを待っている中、
ふと見上げた夜空
そんな自分をよそに中秋の名月と変わらぬ、
ただ、いつにも増して光る星を見ていた。

(2年前4年前とも変わらないかー)

さっきのカフェで
2年ごとに転機となる出来事が起きるバイオリズムに気づいた。
きっかけは自分じゃコントロールできないことで必ず入口はネガティブ。
それでもなぜか周りに人がいて
起きた出来事をプラスに捉え、見えていなかった制限を外して
突き進んでいる自分がいた。

(いろいろな人に生かされているな〜)

改めて言葉にしてみるとその言葉に旅に出る前の思いが少しずつ言葉になっていった。
生きてきたはずの人生だったけど生かされていた。

そんなことを考えていたら
一台のタクシーが来た。

開けたドアに引き込まれるように乗った。

■一つの星

遠い30km先の地点を行き先としてお伝え。
巻き込むような形でタクシードライバーと30分近くのドライブをした。

ここで話してしまうのが自分。
その人の人生を聞き始めていた。

もともとはバブル期の不動産営業だった。
たくさん遊んでいたし、たくさん楽しいことをしていたそうだ。

ただ、バブルが弾けて不動産営業を辞めてタクシードライバーになった。
後悔はないのかと質問をしたときに「ない」と言われた。

得れば得るほど上を見てしまう。
欲のない人と一緒にいるのが一番。

教訓として得ていたようで、突き刺さった。
今の時代であれば「成功者」と言われるような人だったに違いない。
その人をすごくしているのは経験からくる人間としての厚み。

何ができるか?ではなく何を経験し、学び、生かしてきたか?

そのタクシーでのメーターは1万円。
ドライバーとの会話は30分ほど。
躊躇なくこの学びにお金を支払いたいと思えた。

ひとりぼっちでぽつんといた深夜。
生きていくために思考していた一人の人は
生かされる恩と経験をどう返すかを考え始めていた。

■朝、参道にて

日差しに起こされた朝。
手元にあった水を一気飲み。
身支度をした。

いろいろとあった1日目だったが、心も身体も疲れていなかった。

早々にチェックアウトをし、外宮へ
途中何台もの車が通り、この街は車社会なんだなと思っていた。

外宮への途中、背の高い松の木が日差しを遮りながら聳え立っていた。
そして鳥居が見えてきた。

聳え立つ鳥居

その鳥居には古臭さは全くなく、
これから起こることを予言しているかのように堂々としていた。

外宮でのお参りが終わり、内宮への移動
歩きながら途中ではさまざまな人がいた。

道路工事をしている人
美容室への出勤している人
コンビニのレジ係の人

みんなどこにいても変わらないはずの人たち
ただ、自分の捉え方は今までと違って優しくみていた。

みんな生かしあっている。

そんな日常の捉え方が静かに変わっていくのを感じながら
気づいたら内宮に到着していた。

■神のいる場所

内宮に到着し、奥へ奥へと進んでいく。

そしてお参りする直前
大きな風が吹いて、かけられている白い布が大きく舞った。
隠れていた奥の祭壇が見え、まるで迎えられている感覚だった。

その風にはピンと張り詰めた空気が乗っていて
これから清くお参りをするという気持ちにさせた。

伝えたいことは決まっている。

今までのようにこれからも人を幸せにします。
という決意の言葉ではなくなっていた。

今まで生かしていただきありがとうございます。
このご恩はお返ししていきます。

生かしていただいている感謝と自分のできることをしていこう。

優しく、柔らかく、等身大で生きていくと
こころの故郷で約束をした。

またこれからたくさんのことがあるけれど
栄光も挫折も生かしていただいている以上何か意味がある。
怖がって経験しないことも栄光に執着することももうない。
何を経験し、何を学び、どう生かしていくのか?
そんな時間を廻しつづけて、自分を磨いていこう。

そしていただいたご恩をお返ししていこう。

■未来との約束

その後おかげさま横丁でたらふく食べた。

焼き伊勢うどん、松坂牛の串焼き、赤福などなど

ご飯のおいしさに感動しながら食べ歩き

途中、鮎の塩焼きを買ったが
行儀悪いなと思いお店横で立ち止まって食べていた。

鮎にかぶりついていたら横にいたお坊さんが目に入った。
街でよく見かけるお坊さんだった。

ただ、そのお坊さんになぜか声をかけたくなり、声をかけた。
お坊さんは待っていたかのように急に話が始めた。

最初はなんの話をしているのかを集中してきかないと把握できない状況だったが、話を聞いているうちに全体像が見えてきた。

今の世の中のこと。
人々が場の雰囲気をわきまえなくなったこと。
自分のことしか考えず、お金も感謝も廻らなくなったこと。

まるでこの旅の総まとめを聞いているようだった。

その後、お坊さんから言われた言葉はまたここに戻ってくる約束となった。

人は25歳、35歳、55歳に節目がくる。
その時にどんな人になっているかが、次の年齢までを決める。
あなたは次の節目までどうしたい?
どんなことでもやりきってみなさい。
そしてまた次の節目に会いましょう。
私は変わらずここにいる。
あなたが良い人生を送れますように。

そう言われ、肩を撫でられた。

不思議と身体と気持ちは軽かった。

■旅の帰路

新幹線の中、ビールと弁当を食べながら
不思議な2日間を振り返っていた。

共通しているのは人に恵まれていたこと。
人に生かされ続けていた2日間だった。

こんな見ず知らずの自分に
そこまで曝け出して伝えてくれること。
その時の思いや感情からたくさんのことをいただいた。
この旅に感謝の気持ちで溢れた。

あとはこの経験をもとに
自分はどうしたいのか?
それを決めなければいけない。

今回の経験だけじゃなくて
これまでもたくさんの人に生かされてここまできたんだから。
このご恩に感謝して、自分ができることを還元していこう。

あの時見た中秋の名月のように
一人で明るく照らしているのではない。
明るく照らしていただいたご恩をもとに
次の誰かを明るく灯すために生きていこう。

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