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デンジャラスゾンビのガシャットのキーホルダーを知らない人に説明する日

Twitterできないと死んじゃう

 Twitterできないと死んでしまう。とりあえず今これ書いてインターネットに流さないと爆発して死ぬ気がするくらいしんどいから書く。大した話では無いが、Twitterにたらたら書いていられない以上、死活問題である。

デンジャラスゾンビガシャット

 昨日、メールで「授業で使うから、小さめの大事なもの一つ持ってきて」と言われたので、仮面ライダーエグゼイドのガシャットのキーホルダーを持って行った。
(ガシャットとは、エグゼイドにおける仮面ライダーの変身アイテム。劇中設定ではゲームソフトであり、私が持ってるのは友達から貰った「デンジャラスゾンビ」のもの。一番好きなキャラクターの変身アイテムである。檀黎斗の話は始めると長くなるので、別の機会にするとして割愛する。)
 学芸員関連の授業だし、スマホで撮影どうこうとも書いてあったので、自分の大事なものを文化財的なモノに見立てて調書を書く練習をさせられるんだと思っていた。

 予想は大方当たっていたが、行ってみたら「知らん人とペアを組んで互いの大事なものを観察し、思い入れある理由も聞いて調書を作る」授業だと言われた。日頃からウッカリしまくっている私だが、メールを確認してもほかの連絡を確認してもそんな話はどこにもなかったので、やはり今日ここで明かされたのだ。
 裏切られたような心地になりつつも、慌てて思考をめぐらせた。オタクが持つアクリルキーホルダーの文脈や、仮面ライダーのグッズの存在についてあまりに伝わらなさそうに見える相手であった場合を想定し、急遽その場で保険を用意する。先生が話している間に、日頃リュックにつけているぬいぐるみマスコット(JUNK FOOD OPERAの「あざらし?ちゃん」)をそっと取り外しておいた。
 ペアの相手が先生によって適当に指定され、ぜんぜん知らない男子と組むことになった。ぜんぜん知らないが、よく授業中に船を漕いでいたり、グループワークのときは(一緒になったことこそ無いが)マジで何も言わないで後ろの方にいた。私も似たもの同士だが、似たもの同士だからこそヤバい。経験上、この手の相手とペアを組まされた場合、お互いにまともに喋ることができず会話がほぼ成り立たないことがままある。あの、互いの間合いを読めないままギクシャク話す間の胃の痛さよ。おどおど話す自分を考えただけで悲しくなって気が重い。朝から調子は悪いし体は重いし、イライラしてなんかどうでも良くなってきたので、私はあざらしちゃんをカバンに押し込んで、やっぱりガシャットを取り出した。同年代の男性だし、ワンチャン伝わるかもしれない。伝わらなくてもこの手の陰キャオーラのすごい人間は大方オタク趣味だと決まっている(特大偏見・ソースは俺)から、少し話せばわかってもらえるはずだ。
 案の定「では、はじめてください」が告げられても互いに声を出すのに大変な時間がかかった。話し出したら言葉は出てきたものの、やはりガシャットキーホルダーを差し出すのはちょっと恥ずかしい。相手の男子は一つ下の学年だった。資格関連の授業だから同級生とばかり思っていたが、3年生もクラス分けによっては受けられるのか……。と思いながらも受け取った彼の「大切なもの」は、お守りだった。あまりの超素朴で超普通のセレクトに対し、会話のとっかかりを完全に見失った。名前と学年を(授業用プリントに記入するため)聞いたあとは、もう作業するふりをして黙りこくっていた。

 「じゃあ、調書に『来歴』を記入するために、相手に話を聞いてみてください。」先生が言った。
 今更ながら調書とは、文化財とか美術品とかを保管・管理する際に学芸員や研究者、施設職員などが行う記録である。所有者や所在地、材質、状態、サイズや重さ、来歴などの諸々を記録するためのテンプレのようなものである。今回の授業では相手の私物で調書をとる練習をしているのだ。つまり今ここで言う来歴は「なんでこれが大切なのか、どこで入手した何なのか、今はどう保管してるのか」……そういう話である。
 あーっ、嫌。会話しなきゃいけないのか。ちょっとため息が出そうになったが、最近やっと人前でため息をすることはめちゃくちゃプレッシャーを与えたり不快にする行為だと気が付き、止めた。危ない。ただでさえ表情が暗い人間なのに、必要以上に不機嫌に見せることは会話を滞らせるのだ。これも最近理解した。20年以上生きないとこういうことがわからない虚しさは凄いが、わかって変えようとしているのは、とてつもない進歩なんだ。閑話休題。

「あー、これお守りですよね。どうしたんですか、これは。」
「えっと……伊勢神宮のやつ、なんですけど……。」
互いに顔は向けていない。微妙に斜め下を見ている。会話下手クソ陰キャの諸兄諸姉であれば想像がつくだろうが、体も相手に向けていない。そして互いに聞こえるか怪しい声量しか出ない。
 案の定である。2人とも引っ張ってもらわないと会話ができないタイプだ。冷や汗が出てくる。なんとか「数年前の旅行ではじめて伊勢に行くことがあり、記念に購入したものだ」というような話を聞き出して、またそれを必死に書き込む振りをして机を向いた。俯き書き進めながらも、わかる。気配がする…!
 気配も何も、当然、私にも「どうしてコレなんですか」の質問が来ようとしているだけである。とはいえ、敵の攻撃のタイミングを読まないと上手く受け身が取れない。

「あ、あの……」 
来たっ。
「ガシャット……ですよね。デンジャラスゾンビの。」
なっ……!?
完全予想外であり、気がついたら間合いに入られていた。ワンチャン伝わるかな、と思ったのは私だ。だが……ここまでノーコメント、言われたことにだけ答えていたド真顔の彼が初手これを言ったので、私はたぶん負けた。敗北した。

 ちなみに、ここまでの話をTwitterで書くとしたら、こうである。

授業で「大事なもの持ってきて」て言われて自分1人で書き物すると思ってデンジャラスゾンビのアクキー持って行ったら知らん男子とペア組まされて死にかけたが、男子が初手「ガシャットですよね」と言い、話を聞いたら平成ライダーのオタクだったので何とかなった(幸運:A)

 128字で済んだ。
代償と言ってはなんだが、鮮やかなほどに、「いかにも」な、完璧なTwitter構文のオタク───。
〜たが、〜だったので、()。ちなみに、(幸運:A)は、その表記に皆それぞれ異なるゲームや漫画やアニメのステータス情報を思い出しているかもしれない。私はジョジョのスタンドの能力値のパラメータを思い出している。あとFGOのやつ。
 140字の枠があるから、140字に情報を厳選し詰め込める。当たり前のことに気がつく。際限なく書けたら、こんなしょうもない話に2500字も割いてしまう。いつもPCでカタカタ書いてるが、今日はスマホでポチポチ書いてるせいもあり、フリック入力の勢い余って文字数が何かと多いのだ。……誰かの見れるツイートを一つ減らすより、2500字読ませる方が有害だったかもしんねえ。みんなゴメン。

 まあ、そう。たまたま組まされた相手が平成ライダー(しかもどちらかと言うと初期の方)のオタクだったのだ。エグゼイドは最初の方と後半ざっくりくらいしか観てないとのことだったが、さすがに平成ライダーのオタクであれば、檀黎斗みたいな何かと有名なキャラはあっさり通じる。宝生永夢ゥ!
 ちょっと話聞いて書き物するだけの授業だったため、かなり時間が余る。周りのペアはずっとお喋りしていたが、私は黙ってスマホを触っていた。共通の趣味を持っている人で嬉しかったが、今日の私は自分から会話を仕掛けることができるほど力がなかったのである。スマホ見てれば何となーく話さない流れでそのまま行かないかなー……と思っていたが、彼は結構話しかけてきた。それはそれでありがたい。エグゼイドの話をエグゼイドを勧めてくれた友人以外としたのはほぼ初めてだし、嬉しい。
 しかし何せ会話が下手なので、そこんとこは当初の予想通りギクシャク……モゴモゴ……まごまご……オドオド……した。途中からすっかり諦めて、堂々とオドオドしていた。相手も変な色の服を着た謎のキモオタ相手に凄く話しにくそうだったが、話しにくそうなりに話題を振ってくれたので、互いに印象は悪くなかったんだと思う。でも、3000字超えの日記という名の記録兼反省文を書かないと心が整理できないくらいにはしんどかった。通じて嬉しかったんすよ、楽しかったし、ありがたかったが、会話は会話なので疲れる。自分が何をしていたかを洗い出さないと気が済まない。私は変なところで精神的に潔癖なのだと思う。
 ああ、疲れた。こんな長文書いてるからじゃないですか?とか言わないで。それもあるかもしれないけど、書いて、自分で読みながら整理しないと心が持たないのだ。まったく、無駄に負荷のかかる精神構造をしている。

とんでもない幸運だったものの、幸運のせいで会話イベントが倍に増えて当初予定の5倍くらい疲弊した、という話でした。おしまい。


以下、会話でオタクが楽しかったところ。

・「え……あの。ゲンムって……どういうところが好きとかありますか?」
どう聞いても『ゲンムって神だよな?檀黎斗だよな?宝生永夢ゥのやつだよな?滅茶苦茶やったヤツだよな?それが好きなのか?まあ面白いけど……え?』が滲んでいた。檀黎斗に対してはまさしくその反応で『正解』なので、満足した。私自身ずいぶんこじらせたオタクであるため、女性向けオタクカルチャーを通っていないオタク文脈からフラットに見る檀黎斗を感じることができて嬉しかった。たしか「滅茶苦茶やるし、最悪だけどオモシロの感じもあるバランス凄いですよね。それに対してポッピーの話とか重くて。黙ってればかっこいいのに……みたいな感じもあって、好きですねー。」とか答えた。うまく抑えたと思う。キモさを。

・「檀黎斗は……『神』とか言ってるけど、それに見合う実力があるのが、いいなって思いますね。」

それ!!!!!!!!!!!!!

 初めて会って共通の話題として自ジャンルが上がって嬉しくなったけど引かせないようにうまく頑張ってキモオタを抑えてるときに、別に推しとかの視点で見ていない人から、1視聴者としてごくごく自然に抽出された推しについてのキャラ造形に注目したようなハイコンテクストな感想が飛び出してきたら、動揺するだろ。
 動揺しました。この発言を人から聞けた。それだけで今日を生き抜いた価値があった。そう思えます。

ホントにおわり。

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