見出し画像

試験

「えっ?、私、死ぬの?」
彼女がそう問いかけたのは、目の前に死神としか見えない男が現れたからだ。

「そうだ」男は短く答える。

「私、病気でも無いし、不慮の事故にも遭遇そうぐうしそうにも無いわ。場所も相手も間違えてない?」

「間違いでは無い」男はまた、短く答える。
彼女は組んでいた足を組み替える。
そして、不敵な笑みを浮かべ、男に話しかける。

「あなたさぁ、まだまだ若いわよね?
死神としては、まだペーペーでしょ?
会社で言うところの新入社員よね?」

図星だ。
彼は答えない。

「ねえ、私も死神になりたいのよ。どうすればいいのか教えてくれる?」

ここで狼狽えてはダメだ。
今は、死神になれるかどうかの瀬戸際。試験中なのだ。今後の事を考えれば、失敗は出来ない。

と言うか、死神の仕事は対象者を閻魔様のオフィスに連れて行くだけなのだ。

それでも、人と相対し、人の命に関わる仕事なので、問題を起こしてはいけない。

細心の注意をもっての、任務の遂行を求められる。多種多様の場面を想定した訓練を彼は受けてきたのだ。

死神の出現にこのようなアクションをする人間がいるとは。
研修には無かったシュチエーションだ。
彼は正直焦り始めた。

「人間は死神にはなれない」
できるだけ重苦しく聞こえるような声を出した。

女は諦めない。

「どんな世界でも、抜け道はあるものよ。例外って事だって、沢山あるわ」

「死神に例外は無い」
しっかりとした声で、彼は否定する。
そう、けっして、あってはならない。 

押し問答を繰り返していると、

「そこまで」と声がかかった。
「残念だが、君の試験は失格だ」

そう告げられたのは女。

「あれ程頑張って死神の指導者を目指して来たのに、なぜ?」

「それを告げる義務はない」
試験官の声は冷たく響く。

死神試験を受けていた男も、驚きを隠せない。
何なんだ、これは?

試験を受けていたのは、私では無いのか?
聞こえないはずの彼の言葉は、その場にいた者には伝わったはずだ。

試験官は、死神試験を受けていたはずの彼に向き合う。
「おめでとう、君は、死神上級試験に合格だ。」

死神試験を受けていた男はキッパリと否定する。
「私は初級試験の受験者です。上級ではありません」

なんだかメチャクチャだ。

どうなっているのかと、隠れていたスタッフも姿を現す。

その時、閻魔様の声が響いた。

そこに居た全員に緊張がはしる。

「死神試験ならびに、死神指導者の両受験者は合格とする。しかし、試験官受験者は不合格とする。」

閻魔様は、必要以上にゆっくりと申し渡す。

試験官の受験者は叫ぶ。
「閻魔様、なぜです」

「それを告げる義務は無い」
閻魔様の冷たい声が響く。

試験官試験の受験者は泣き崩れる。

どよめきの中、閻魔様はきびすを返し、オフィスに戻って行った。

オフィスでは、閻魔様が大きなため息を一つ。
カレンダーを見ながら、つぶやいた。

「ああぁ、気が重い。明日は閻魔更新試験だ」


<><><><><><><>