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太郎の物語(ショートストーリー)

昔々、あるところに裕福な村がありました。その村に太郎という名の青年が住んでいました。太郎は村の庄屋の息子で幸せに暮らしていましたが、父親が亡くなると小狡い叔父が庄屋となり、太郎は村を追い出されてしまったのです。

太郎がトボトボと当てもなく歩いて行きますと、川で一人のお婆さんが大きな桃を手に、なにやら困っているようでした。
太郎はお婆さんに声をかけました。するとお婆さんに、桃を家まで運んで欲しいと頼まれたのです。

太郎は大きな桃に驚きましたが、心優しい太郎は大きな桃を運んであげました。
お婆さんの家に行き、大きな桃を二人で仲良く頂きましたが少し大味だったようですよ。
それが縁で、しばらくお婆さんの家で手伝いをする事となった太郎でした。

ある日のことです。
山から犬と猿と雉が太郎を尋ねて来ました。
悪い鬼をいっしょに退治して欲しいと言う話でしたが、三匹は太郎の細い体を見て、このままでは無理だと考え、山に来て、先ず身体を鍛えて欲しいと頼んだのです。

太郎は三匹に同行し、その日から熊や猪と相撲を取ったりウサギを追って走ったりして身体を鍛えました。もともと素質があったのか、どんどん逞しく、強くなっていきました。

そして太郎と犬、猿、雉は、お婆さんがこさえてくれた吉備団子を食べて、鬼ヶ島に鬼退治に向かったのです。

ところが、戦う前から鬼たちは友好的でした。
話を聞くと、鬼を見ると人間も動物も逃げて行くのが悲しくて、ついつい悪さをしてしまうと言うのです。

そこで太郎と三匹は鬼と人間や動物の仲立ちをして、鬼の事を理解してもらいました。そしてみんな仲良く暮らせるようになりました。

しばらくすると、今度は亀が尋ねてきました。
海岸から近いとは言え、おばあさんの家にたどり着くまで、かなりの日数が必要だったようです。

亀は乙姫様からの伝言をゆっくりと伝えました。
「乙姫様が 太郎さんに 願い事があるので、 竜宮城に来て欲しいと 願って おられます」と。

「乙姫さまが何か困っておられるのでしょう。太郎や、助けておあげなさい」
お婆さんは太郎にそう言いました。

それで亀の背中に乗り、太郎は竜宮城に向かったのです。

乙姫様はとても美しく優しい方で、太郎の胸は高鳴りました。
「私に、どんな御用があるのでしょうか」
太郎は尋ねました。
「太郎さん、私の夫になって下さい。3日間だけで良いのです」

乙姫様にそう言われ、断る者があるはずはありません。
乙姫様と太郎は夢のような三日間を過ごしました。
乙姫様は別れの時、太郎に土産にと玉手箱を渡してくださいました。

「太郎さん、私の願いを聞いてくださりありがとうございます。これはあなたを助け、守ってくれるものと思います。でも、決して開けてはなりません。開けるとあなたは年寄りになります。つまり寿命が短くなるのです」


そうして太郎さんはお婆さんの家に帰っていきました。
玉手箱は家宝として大切にすることにしました。
太郎は、おばあさんを助けて、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。


おしまい


《後日談 玉手箱》

現在の太郎さんの妻が玉手箱をしみじみと眺めている。

「そんな言い伝えのある玉手箱がこれなのよね。
確かに、国宝級の美術工芸品のようにも見える。 
『太郎』の名は代々受け継がれていると聞いている。
ご先祖の太郎さん達は、それぞれ多くの困難を乗り越えてきたとも。
それは、この玉手箱のおかげだと私も信じているのだけれど。
でも、でも。
中に何が入っているのか気になって仕方がないの。本当に煙だけ?本当に年寄りになってしまうの?今私が開けたら、おばあさんになるの?私は太郎ではないから大丈夫?
おばあさんになるのは嫌だけど気になる中身」

そっと持ち上げると空のように軽い。

「でも、ご利益はあるのよね。どうなっているのかしら。お札が一枚とか?」


とうとう彼女は玉手箱の紐に手をかけた。

そして……。
彼女は乙姫様に変身していた。
なんてことは無いと思うのですが。


《後日談 終了》


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🐈‍⬛
オマージュになったかな?めい


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