マガジンのカバー画像

毎週ショートショートnote

212
たらはかにさんの企画です。410文字ほどの世界。お題は毎週日曜日に出されます。
運営しているクリエイター

2023年9月の記事一覧

あるべき成仏宴 毎週ショートショートnote

私は彼の家の前に佇む。彼の顔を一目見たかっただけ。 そして、彼が家から出てきた。綺麗な女の子を連れて。朝の7時。私がいなくても平気なんだ。 その時、黒猫に出会った。 猫の後ろ脚は左右とも白の靴下を履いていているようで。他の部分はすべて黒い。そして背中には真っ白な羽。悪魔の化身?それとも天使? 私は怖がるべきか、面白がるべきか迷った。まあ、面白がるべきだよね。 何があっても私はもう二度と死ぬことなど無いのだから。 私は早速、猫に声をかけようとしたが、猫の方が先に私に声をか

なるべく動物園 毎週ショートショートnote

以前書きました、背景的なお話です。↑ 動物園で働いている仲良しのリスとトラは、長い間頑張ってきた。この度、めでたく定年退職を迎える。 「トラ君は故郷に帰るのかい?」 「いや、故郷っていっても、ボクはここで大きくなったし、こちらの世界しか知らないしな。君はどうするの?」 リスはこの動物園で生まれ育った。 「ボクはこの動物園に、嘱託として残ろうかと思ってる」 「どんな仕事するの?」 「バナナのたたき売りさ。隣りのバナナ園に誘われてるんだ」 「そうか、もう決まりそうなんだね。羨ま

チョロいの、くさび 毎週ショートショートnote

「あの二人を別れさせれば良いのね。見てなさい。そんなに時間はかからないから。チョロい仕事をありがとう」 別れさせ屋のナナは、自信満々の笑顔。 仕事を頼んだのは私だが、彼女はどんな方法であの夫婦を別れさせるつもりなのだろうか。 「二人の間にくさびを打ち込むだけよ。打ち込むほどの隙間はいくつかあるものよ」 ひと月ほど過ぎたがナナからは何も言って来ない。途中経過の報告もない。あの鼻息はどうした。こんなに彼女が手こずるなんて思ってもいなかった。 彼女に連絡したら、意気消沈した姿

呪いの臭み 毎週ショートショートnote

「虐めをやめろですって?」 ここで彼女が高笑いでもすれば、私は平常心を失くしただろう。 彼女は、まっすぐに私の目を見た。 「実はね、私、呪われているのよ。間違いないと思っている」 話の展開に私は返事に困った。 彼女は続ける。 「私、何人かの人に憎まれているのよ」 私もその中のひとりだわ。心の中で呟く。 「そうなんだ、自覚はあるのね」 「あなた、私が楽しんで皆を虐めてると思っているでしょ」 しばしの沈黙。 「聞いてくれる?」彼女は萎れた様子。 「この先にある小さな祠に、私

パフェフンフン33秒 毎週ショートショートnote

私は幼い頃から甘いものが苦手。 歯が生える頃から、タクアンの尻尾をチュパチュパしていたらしい。乳ボーロなどイヤがっていたそうなので筋金入りだよね。 例外はある。果物なら柿、スイーツだったら、プリン、アイスクリームは好き。 パーラーでの注文はいつも、トマトジュースかアイスクリーム。皆んなが大好きなケーキ類は特に苦手だった。 可愛げが無いと言われるので、パフェを食べる練習をした事がある。なんだかんだで、まだ一度も完食した事は無い。 でも、こんな事けっして口外できない。今こんな

カフェ4分33秒 毎週ショートショートnote

無人のカフェの話を聞いた事ある?店名は確か『ナチュラル』だったかな。場所?人によって言ってる場所がバラバラ。 入店するとマスターも客もいる。オーダーするとマスターがテーブルに運んでくれる。一口味わうと店内の人が皆んないなくなるって話。 そんな動画を偶然見た。 配信したのは誰か不明だったけど。 好奇心はあるが、場所の特定がないし、ただのガセだと思うよ。 そんなことをすっかり忘れた頃。散歩の途中、私は例の『ナチュラル』に遭遇した。まさかの場所で。 ドアを開けると、何の変哲も

オラオラするTシャツ手触り 毎週ショートショートnote

Tシャツがオラオラと言うと言えば、あなたは信じてくれるだろうか。そのTシャツは、そっけないほど普通の白いTシャツ。 古着屋のオヤジは、私が手に取って眺めていたら、すかさず現れて「500円でいいよ」と言う。 手触りも良い。シンプルさが気に入り購入した。店を出ると、オヤジは直ぐに店を閉めて、更にシャッターまでも下ろし、ついでに『しばらく休業致します』と書かれた紙まで貼った。 今思えば変だよな。 そのTシャツを着ると、『誰でもいいからかかって来な』みたいな気になる。小心者の私が

イライラする挨拶代わり 毎週ショートショート note

「つまらないものですが、挨拶代わりの品お受け取りください」 そう言って彼女が差し出したのは、二歳の男の子。 彼女は隣りに住む花村さんの奥さん。お隣り同士仲良くしてるし、この男の子は健君という。 私たち夫婦は唖然とした。 何の冗談か、また部屋のどこかにテレビ局のカメラが隠してあるのかと疑った。 同じ頃生まれた我が家のマリは、お隣さんの声を聞きつけ、健君の手を引いて子供部屋に消えた。 いつものようにダイニングで話を聴く。 「いったい何事?」 「私ね、奥さん。私もう黙っていられ