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爪毛の挑戦状

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爪毛川太さんの企画です。 410文字の世界。お題は固定です。選ぶのはあなた。
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2022年6月の記事一覧

宇宙の光と影

君達はまだ、宇宙の本質を知らない。君達が想像する宇宙は暗い闇でしかないのだろう。 実は宇宙は光に溢れる世界なのだよ。 君達が想像、あるいは見ている宇宙は本来、明るく輝く光の世界だ。 つまり、黒が重なり続くと光になる。これが宇宙の常識というか真理だ。 勿論、地球上ではあり得ないだろう。だが、地球の常識で宇宙を語るのは間違いなのだ。それが一番言いたい事。 見るがいい、宇宙を。 光溢れる宇宙を。 ほかの星の人々にとっては、宇宙はいつも昼間のような光の中。 地球人には、宇

風の香水

雨が降ると我が家のベランダに、最近何かが訪れる。 雨の日にだけ現れ、自分は風だと言う。 風は見えないはずだが、得体がしれないので反論はしないでおく。 話し相手になれと言うが、大抵は一人で喋る。時たま合槌を求められる程度だ。 ここはマンションの20階、アイツは人で無い事は確かだ。 そんなある雨の日、彼は空を見ながらこう言った。 「ここも明日で梅雨明けだ。アンタには世話になった。これを受け取ってくれ」 小さなビンを渡してくれた。 「これは『風の香水』だ。この香りには秘

白い歯

僕は歯が丈夫で虫歯ひとつ無い。良い歯のコンクールで優勝した事もある。勿論、理想的な歯並びだし、歯も白い。 この白い歯は今では生活の糧の一部分でもある。僕の家は貧しい。 僕はハンドモデルの中の、歯のパーツモデルなのだ。 勿論、仕事はたまにしか無い。 でも、いつ声をかけられてもイイようにスタンバイを意識しておかなければならない。 そんな僕にも、彼女ができた。 僕と同じ高校の1年生。いっこ下だ。 近所の子で、幼馴染でもある。 ある日の夕暮れ時、彼女、美佳は僕を驚かせた。

インスタント宇宙

宇宙物理学、宇宙工学等の研究データに基づき、様々な宇宙開発分野は少しずつ業績を積み重ねている。 そんなある日の事、驚くような発表があった。 私達の宇宙は本物では無いというものだった。NASA関連の研究所からの発表なので、信憑性はあるようだ。が、信じる事はできない。 銀河の隅っこにある、地球人が名前も知らない小さな星。 二人の少年が、新しく販売された【作ってみよう!インスタント宇宙】 という、教育キットでなにやらやっている。 A「僕の作った宇宙は、人間が住む星は一つし

新鮮な霊と旅の霊

60になった時、ふと思った。 世界一周の旅をしてみたいと。 世界一周どころか、日本から出た事も無いのだ。 必ず実現させよう。 そう思ったのに、あっという間に時は過ぎた。 70になった時、ふと思った。 日本一周の旅をしてみたいと。 日本一周どころか、生まれた県から出た事も無いのだ。 必ず実現させよう。 そう思ったのに、あっという間に時は過ぎた。 80になった時、私は死の床にあった。 ああ、何とつまらない人生だ…。 涙が溢れた時、私は終わった。 私は立ち上がった。姿は変

うんこアイドル ショートショート

最近デビューした二人組をご存じだろうか。「雲虎」と「湿虎」の2人。『うんこ』『しっこ』と読む。 彼らが所属する芸能事務所は、なぜこのような衝撃的な名前を付けたのか?インパクトは確かにある、ありすぎる。 心配されたとおり、湿虎の方は早々とこの世界を去った。 だが、雲虎は脱落しなかった。これを機に芸名も変わると思われたし、事務所もそうするつもりだった。 が、彼は改名を固辞したのだ。 事務所もファンも驚いたが、彼の意志を尊重した。 こうして、雲虎はソロアイドルとして再デビ

毛と爪 ショートショート

うららかな春の日差しを背に、若くは無い男が縁側でお昼寝中。静かだ。 いや、話し声がする。耳と目の感度を上げてごらん。聞こえるだろ?見えるだろ? 毛「あぁー、かなり伸びた。いい加減に床屋に行って欲しい」 爪「こっちもだ。最後に切ってもらったのはいつだっけ」 毛「そうか、僕らに必要なのはハサミだね。早く誰でも良いから切って欲しいよ」 毛と爪の会話を聞く者がいた。    「私に任せて」 そう声がした。 声はすれども姿は見えず。 「私は脳、直接、間接にこの男を操っているのよ

見つめる目薬 ショートショート

この頃、誰かに監視されている気がする。素敵な女性が建物の陰から胸をときめかせて僕を見つめていて欲しいものだけれど。あり得ない。 命を狙われるほどの大物でも、ワルでも無い。借金も無い。 そうだ、外だけでは無く、アパートでも何かの視線を感じる。なぜなんだ、僕はどうかしたのか。 彼を見つめていたのは、目薬かも知れない。 彼がどこに居ても、彼を見つめる視線は途切れない。 彼が最近別れた彼女は、薬局勤めの女。 彼から別れを告げた。 彼は目薬を買うほんのついでのように、彼女を捨て