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ショートストーリー

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2023年9月の記事一覧

夜の作家(ショートストーリーのような、詩のような)

月明かりがあなたの窓辺に届く夜 フクロウが始りを告げる夜 明日葉の花が咲く時を忘れ ただ春の夢を見る時 そんな夜に広げる古い本 前書きも後書きも 知らない文字で書いてある 物語は白紙のままに そのままで あなたが紡ぐ物語り 主人公を決めたなら 夜の世界を突き進め 原稿用紙を埋めていく 知らない文字は踊るだけ 知らない人の無駄話 知らない世界のその中は 内緒の話で満ちている さあ書いて あなたの文字で あなたの言葉で 主人公の願いを知るために あなたの願いを忘れるために

タンタとキン(ショートストーリー)

昔の昔、もっと昔。 あるところに、トンガリ山と呼ばれる山があった。その麓の森で生き物達は仲良く暮らしておった。 年寄りのタヌキとキツネが、なにやら話をしている。 ほら、池のほとりにある大きな木の下。 「なあ、キンさん。わしらも年をとったなあ。あの頃の友達で残っているのは、アンタだけだよ。キツネのアンタとタヌキのワシと……」 「そうねえ、私とタンタだけ。寂しくなったねえ」 「キンさんとは、ケンカも化かし合いもたくさんやって楽しかったよ」 「私達は家族も今は無いし、アン

シャンプー(ショートストーリー)

月曜日の夜、一人の浴室。 今日はお休みなのね。律儀な彼。少し寂しいわ。 隣の住人、絵里さんが言っていた。この部屋の前の住人は生前美容師だったって。 それも、なかなかの美男子だったそう。そして腕も確かだったって。仕事熱心な人だったみたいね。 月曜日は、今でも彼にとっては休日なのよ。 だから今日は自分でシャンプーしたけど物足りなかった。 そんな彼は、私がこの部屋に越して来た日から、夜な夜な私の入浴タイムに当たり前のように現れる。当然と言えば当然なのだと、私、納得しているのよ。

黒猫白猫(ショートストーリー)

「黒猫と白猫、どちらがよろしい?選びたくなければ産まれた時のお楽しみとなります。どうしますか?」 神様のところで猫になりたい列に並び、産まれる順番を待っていたんだ。 その時、優しく天使にそう聞かれたんだよ。 「ボクどうしようかな。どっちでもいいな。ウ~ン、黒猫がいいかな」 そう答えた。 僕の後ろに並んでいた子も 「私も黒猫か白猫だといいなぁ、じゃあ白猫にします」 そう答えていた。ちょっと可愛い子だった。 天使はメモ帳に何か書いている。みんなの望みを間違えないようにメモして