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タンタとキン(ショートストーリー)

昔の昔、もっと昔。
あるところに、トンガリ山と呼ばれる山があった。その麓の森で生き物達は仲良く暮らしておった。

年寄りのタヌキとキツネが、なにやら話をしている。
ほら、池のほとりにある大きな木の下。

「なあ、キンさん。わしらも年をとったなあ。あの頃の友達で残っているのは、アンタだけだよ。キツネのアンタとタヌキのワシと……」

「そうねえ、私とタンタだけ。寂しくなったねえ」

「キンさんとは、ケンカも化かし合いもたくさんやって楽しかったよ」

「私達は家族も今は無いし、アンタが頼りだよ。これからも仲良くしておくれ」
キンさんは、タンタの手を取った。

「もちろんだとも。ワシのこともな」
「なあんてね、本気にしただろ⁉」
「ふん!誰がだよ、ちっと、遊んでやっただけさ、阿保らしい」

森の仲間がひそひそ話。
「あの二人、またやってるよ。騙し合いを楽しんでいるのかもしれないけど。なんだかね」
「そうそう、見ていてじれったいよね」

キツネとタヌキ、二人は若い頃からこんな事ばかり繰り返している。
森の仲間は二人の気持ちをちゃんと知っている。しかし、キツネとタヌキは先祖代々、お互い相容れない相手なのだ。


森のはずれに一体のお地蔵さまが立っておられた。
人間はこんな場所にお地蔵さまがおられるなんて知らんだろう。
その代わりと言ってはなんだけど、森の仲間はお地蔵様をとても大事にして、敬っておった。



そんなある日、キツネのキンさんはお地蔵様の所へやってきました。

「お地蔵さま、私はこの世では叶いませんでしたが、どうぞ今度生まれ変われるなら、タンタと同じタヌキとして産まれたいです。そして、タンタのお嫁さんになりたいです。よろしくお願いします」

お地蔵さまは、キンさんの前にお参りにきたタンタの事を思いました。タンタはキツネに生まれ変わって、キンさんと一緒になれるようにと願ったのです。

お地蔵さまは、その日から姿を消しました。どこへ行ってしまわれたのでしょう。山の動物たちは、一生懸命捜しましたが、見つける事ができませんでした。

キンさんは思いました。
私が無理なお願いをしたから、お地蔵さまは怒ってしまわれたのだわ。

タンタも思いました。
お地蔵さまが馬鹿な願い事をしたワシに、愛想尽かしなさったのかなぁ。

そんなある日、タンタとキンさんは、バッタリ池のほとりの大きな木の下で出会いました。

「あ、キンさん」「タンタ」
ふたりは同時に声をかけました。
キンさんは、タンタの顔を見るとシクシクと泣き始めたのです。
タンタはキンさんが泣くのを初めて見ました。
タンタはどうしたらいいのかオロオロしましたが、そっとキンさんの頭を優しく撫でました。

頭を撫でられているキンさんは、どうしたらいいのか分かりませんでした。
お地蔵さまが居なくなって悲しいのと、タンタに頭を撫でられて嬉しい気持ちが一緒になって、頭をグルグル回っています。

その時、お地蔵さまが姿をお見せになりました。
「タンタ、キン。お前たちはまだわからないのかい。未来のことなど誰にもわからない。今を大切に生きていきなさい」
そう言われると、お地蔵さまは姿を消された。

タンタとキンさんは、手を取り合って泣きました。でも、その顔は笑顔でした。

その様子を見ていた森の仲間たちは、たくさん花を摘んできて、二人に渡しました。
それはまるで、結婚式のようでした。

それから二人は毎日腕を組んで、仲良く池の周りを散歩していますよ。

お地蔵さまはあれから、池のほとりの大きな木の下におられます。
森の仲間達を今までと同じように優しく見守っておられるのです。


昔の昔、もっと昔。
トンガリ山と呼ばれる山があった。その麓の森の生き物達は、今日も仲良く暮らしておりますよ。




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