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ショートストーリー

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2023年2月の記事一覧

印鑑(140字小説)

結婚した時、今まで使っていた印鑑どうした? 私、旧姓の印鑑を未だに持っているの。 それは高校卒業時の記念品で綺麗なオレンジ色のマーブル柄の印鑑。私はその印鑑が好きだから苗字が変わったけど持っていた。 もう一度使い始めたいの。夫は良い人だけど。ただ私は印鑑の方がずっとずっと好きだったの。 この印鑑の事は事実ですが、もう手元にありません。この苗字の方に差し上げました。色々事情があったようです。

眠れない夜の夢(ショートストーリー)

眠れない。 こんな時はホットミルクを飲むんだって。 外国のお話に書いてあったのを思い出した。 本当かな。 明日は遠足だから、しっかり眠るようにって、絵里先生が言っていた。 だけど眠りたいけど眠れないんだ。ワクワクするからかな。 気がついたら、ボクはカニになっていた。海の中でも息ができる。やったー! あ、キレイなお姉さんが……。 あれ?お姉さん、足が無い。お魚の尾びれ?えっ! もしかして、お姉さんは人魚? 「お姉さん、ボクね、ハルトって言うんだけど、なんでかカニになっち

定時(140字小説)

子供の頃、家で近所の方々がお喋りで盛り上がっていた。一人が「主人が定時に帰ってくるから」そう言って帰られた。 私は母に定時とは何かと尋ねた。 「ご主人が決まった時刻に帰宅されるのよ。夕食の支度を急がれるの」 「ふーん、うちのお父さんは?」 母はため息。 「うちも定時よ。毎晩、深夜だけどね」 140 そう言えば、子どもの頃は晩御飯の時に父がいない事が多かった。 労組の活動に力を入れていた父親。時代だなあ。まあ、それなりに出張、深夜活動が華やかであったと思われます。 小さ

床屋(140字小説)

「私ね、最近頭の右側、毛が少なくなって。 なので分け方を変えたいが」 結構高齢の馴染み客に言われた。 「大丈夫です。うまい具合にやりますよ」 そうは言ったが内心は困惑。 客の髪は右も左もかなり少ない、それは言えないしな。 私も同じ悩みを持つ。このお客でアレを試してみるか、成功すれば自分にも。 私も美容院に行った時、同じ会話をしました。美容師さんは、本当はどう思っているのかなと気になったのでした。 #140字小説 #床屋 #ショートショート

夜陰(140字小説)

夜が好きだ。 陰であればあるほど胸が高鳴る。 夜陰に乗じて、一人ハイヒールで歩く時のトキメキは格別だ。 コツコツという音が、やがて恍惚を伴い、脳を経由して、いつの間にか私自身がハイヒールの音そのものになる。遠く近く、やがて夜陰と同化する。 この激しくも静寂でさえある時間を楽しめる幸せよ。 とは言え、ひとりの夜歩きは怖い。 一緒に歩いてくれるのは誰? 妖怪よりも、幽霊よりも、怖いのは人間かしらね。 #140字小説 #夜陰 #ショートショート

うろ(樹洞) ショートストーリー 836文字

私が幼い頃から通い慣れた道に、大きな木がそびえている。何の木か知らないままに、私は老人になってしまった。木にとっては60年、70年はあっと言う間であったのだろう。 私はこの大木が幼い頃からずっと好きだった。悲しい時、悔しい時、寂しい時、そう、いつだって木は私の内にも外にも寄り添ってくれたのだ。 木登りができなくなって久しいが、木の温もりは、私の幼い頃と変わりないように思える。 この木には私の目と同じくらいの高さに、赤児の頭ほどのウロがある。大きめのお椀が半分だけ木にくっつ

星空 140字小説:54字の物語

バレンタインに寄せて 君は何を見ているの? 僕を見て欲しい。 君は僕の全て。 君はいつ気づいてくれるの? 「あなたは誰」って聞くのかい? こんなに君を愛しているのに。 本当に気づかなかったの? 悲しいな。 ほらご覧よ、果てしない星空を。 星空はなんでも知っているよ。 ただ黙って、君を見守っているんだ。 そうさ、僕のように。 140 女性も自分へのご褒美に『自分チョコ』を楽しむ方が多いようですが、男性も自分が好きなとか、食べてみたいチョコを購入される方も増えたそうです

洗濯 ショートショート(410文字)

僕、いい事を思いついたんだ。 胃を綺麗にする方法。 お腹が空いている時、やってみてよ。 先ず、ぬるい白湯をコップ一杯飲む。もう少し多くても良いかな? ね、白湯だよ、コーラやジュースなんかはダメだよ。 I分ほど、静かにしていて、それから胃の部分を軽く抑えたら、ピョンピョン跳ねたり、腰を振ったりするんだ。1分くらいかな?人によるかな? もうわかった? 洗濯機で洗濯してる時、中で水がチャプチャプいってグルグル回っているあの感じ。 絶対にいい方法だと思うんだ。 ママが洗濯槽の

学校(140字小説)

ボクは猫に生まれて幸せだったのかな。飼い主さんは優しいし、ご飯もおいしい。でも、何だか物足りないんだ。欲張りかな。 ボクの住んでいる家のシン君は、毎日学校に行って勉強している。 エライ人になるためだって。 ボクはずっと猫のまま? エライ人にはなれないの? 学校に行けば良いの? 誰か教えてよ。 140 猫って、考え深げにしている時がある。 何を考えているのだろう。 考えているとしても、猫語なんだろうけれど。猫と意思疎通ができる日は来るのかな。 いや、来ない方がお互いの

愛(140字小説)

愛って何。 心の奥深く隠れているもの? 思い出せない。 きっと年齢を重ね過ぎて忘れてしまったのだわ。 愛を忘れても生きていける。 だって私、生きている。 愛こそ全てと化粧の男は歌う。 愛は要らぬと短髪の女は歌う。 年寄りは黙って聞く。 愛は拾うもの?愛は捨てるもの? どちらもウソで、どちらもホント。 140 愛の歌は星の数ほどありますが、あなたはどんな歌が好きですか。 一曲だけを選べと言われれば無理ですが、 ユーミンの『春よ、来い』は間違いなく、私の好きな愛の歌です。