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ショートストーリー

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2021年11月の記事一覧

草原の少女(後編)

さて、場所は変わる。 ネリン達の小屋の中。お祖父さんは、子供達にベリーのシロップがタップリ入ったお茶を出してくれた。 アンは水をもらった。 お祖父さんは自分の為にコーヒーを入れ始める。大人の香りが子供達の鼻を擽る。 お祖父さんは、コーヒーを一口すすると少女に話しかける。 「君は何か、頼みに来たんだね?」 「はい」 「その為にアンを案内人にしたんだね?」  「はい」 「アンとはずっと前から知り合いだったね?」  「はい、アンちゃんが小さい頃から仲良くしていました。」 「そう

草原の少女 (前編)

結構昔の話。「Rの国」そう呼ばれる小さな国があるのを知っていますか? その国にネリンと言う名の12歳の少年が住んでいました。彼はお祖父さんと二人で、慎ましく穏やかに暮らしています。 ネリンの両親はネリンが幼い頃、不慮の事故で亡くなり、ネリンを慈しみ育ててくれたお祖母さんも昨年亡くなりました。 お祖父さんと二人だけで暮らすのは寂しい事ではありましたが、お互いを心の支えとして仲良く暮らしているのです。また、自然の中での小さな楽しみや出来事は二人を強く結びつけているのです。

反射

レースのカーテンが揺れる。 窓の外に目をやれば、春の光が口笛を吹きながら通り過ぎてゆく。 そう、新しい口紅と春色のスカーフを買いに行こう。 私は、落ち込むのも早いが、立ち直るのも早い。 そして、旅に出るのだ。全てを捨てて。 イケナイあの人は、隣の部屋で眠っている。 さよならは言わないつもり。 ドアを開けると、眩しくて目を開けていられない。 爽やかな風が吹き抜ける。 これ以上旅立ちにふさわしい日は無いだろう。 明るい未来に向かって、私はドアを後ろ手に閉める。 少しだけ

姫の種(桃太郎のパロディ)

昔、昔、ある貧しい村にお爺さんとお婆さんが住んでいました。お爺さんは川に洗濯に、お婆さんは山に柴刈りに行きました。 家庭もそれぞれ、夫婦もそれぞれ。 お爺さんが川で洗濯をしていると、川上から大きくて真っ赤な何かが流れてきました。それは見たことも無いものでしたが、とても美味しそうに思えました。 その大きなものを手にすると、なんとも言えない良い匂いがします。きっと食べられるものだと、お爺さんは大喜びで抱えて家に帰っていきました。 その頃、お婆さんは山仕事をして、帰りは柴を刈り