読書日記223【おいしいごはんが食べれますように】
冒頭の文に書かれたこの一文で、仕事ができる人というか、仕事で頑張る主人公の物語なんだなと理解できる…
高瀬隼子さんの作品。芥川賞も受賞している。埼玉という都心からちょっと離れた少し閉鎖的な支店で、ご飯を食べることや私生活を大事にする芦川さんという女性を取り巻く二人の男女が主人公になっている。
二谷という若い男性社員と押尾という芦川の後輩になる女性社員の主人公の二人が一人称になったり、三人称になったりして物語が進んでいく。
芦川さんは仕事は無理してしない。二谷とは肉体関係がある。普通に偏頭痛が痛いといって帰ってしまう。その尻拭いをするために押尾は迷惑を被っている。ただ、芦川さんに自責の念はない。つまりは『それが普通』と本気で感じている。
女性が主人公でその女性がキャリアウーマンで…無理をして自分が崩壊してという物語はたくさん読んだ気がする。コンプライアンス重視の世界観の中で、同僚である人を守らない自分自身のためだけに仕事をする女性を、それが普通だと感じる『鈍感力』をもつ、その女性が結局のところ会社での勝者になるという現実をすごくリアルに表現している。
押尾は芦川の仕事の仕方に嫌気がさしたのか、二谷と芦川の関係を知りながら二谷と肉体関係と持とうとする。肉体関係は未遂で終わる。ただ、芦川を嫌だと思う同僚は何人かはいるし、旗向きは芦川排除の方向に向かうのだけど、結末はやはり芦川が中心の世界になっていく…
『おいしいごはん』というキーワードが徐々に本性を表していく。二谷と押尾の会話は仲の良い同僚の顔と恋人同士の顔を見せていく…ただ、その気持ちのない二人は芦川の普通にのまれていく…。
図書館で借りて読んでいる。物語的に抜群に面白い。今どきの文章というか、しっかりとした文体で書かれているのに上手く砕けている感じもあって読み易い。主人公の入れ替えで使っている、一人称と三人称の変え方などはお手本みたいな文章になっている。
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