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読書日記68

純喫茶トルンカ

 八木沢里志さんの作品で続編もある作品。純喫茶トルンカというもうちょいいい名前あったんじゃね?という名前の(お客に取るんか?はないんでないかい?)喫茶店でおこる出来事が書かれている。昔と今が上手く繋がるオムニバスな小説になっている。3篇で織りなされて章ごとに主人公が違う。ただ、店名と一緒でギャグで書いているのか?それとも真面目なのかが、ぶれてしまっていてちょっとぼやけている。

 下町情緒の色濃く残る商店街の路地を抜けた袋小路にある喫茶店トルンカでバイトをする大学生の修一が1話目の主人公となる。マスターとその娘の雫という高校生と一緒に仕事をしていると、若く綺麗な女性がこの目立たない場所の喫茶店に突然入ってくる。コーヒーを頼むと突然にバイトの修一にこの女性が話しかける。「実はあなたは私と前世で知り合っているんです恋人同士として」驚く修一。そしてこの店に通う不思議な女性・雪村千夏が客としてお店に通う日々が続く。

 修一はつい最近に同じ大学に通うめぐみにフラれて未練たらたら、そこに不思議女性の雪村千夏があらわれたので事情を知るマスターと雫は応援する。さてさてこの2人の新しい恋の行方は?となるんだけど、この不思議な女性には理由があってそこら辺の噛み合いが短編として上手くできている。この雪村千夏はちょっとドジな設定になっており、人生では仕事に失敗してばかりで学歴もなく自動車工場で働く女性にしてある。それがなぜか哀愁を感じはじめる。女性の刹那がすごく漂う。人間の表現がすごく上手い作家だと思う。

 他の2作もお客である中年男性と最後は雫が主人公になっている。それぞれが単独でもしっかりかけている。これでセッティングがしっかりしていたら本当にドラマを観ているように物語が流れている。実際にこの作品に近い「森崎書店の日々」はドラマ化されているらしい。なんかわかる気がする。

 村上春樹の「風の歌を聴け」中に主人公の友達である鼠という男が「誰もセックスをしないし登場人物も死なない小説を書く」といって主人公である僕に誕生日プレゼントとして自分の書いた小説を送るというところがあるけど、その小説に近い感覚がある。なぜか鼠がこの小説を書いているんじゃね?と錯覚をおこす。

鼠が主人公にその後に必ず送る文がある。

"Happy Birthday and White Christmas"

 と書いてある主人公の僕の誕生日が12月24日だからなんだけど、英語版を読んでいると何故か涙がでてくる。感じ取る部分が違うからなんだろうけど年齢もあるかも知れない。

 そうするとこの不可思議な小説がなぜか心に染みてくる。ここら辺が著者の意図するところなのかもしれない。最初に書いたボケ感はわざとなのかな?と読み終えた時には感じた。

 続編を続いて読もうと思います。

 

 

 



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