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読書日記120 【キリンビール高知支店の軌跡 勝利の法則は現場で拾え!】

 田村潤さんのビジネス書。キリンビールが売れていない時期に高知県という都心とは離れた場所に所長として転勤した著者が、キリンビール逆転の狼煙(のろし)をあげるまでの日々を書いてある実録書。左遷と思われた(会社内でもそう思われていたらしい)著者が、高知で成績を上げて出世をしていく。

 キリンビールというのは1972年はシェア60%だったのが2001年に40パーセントまで落ちて、アサヒビールに首位を抜かれてしまう。その6年前に著者は高知支店長に任命される。阪神淡路大震災があって地下鉄サリンがあって「本当に世紀末か?」と思うような思いに駆られる時期でもあった。

 東京本社で部長代理だったのが、量販店の価格競争でビールも「ゴールの見えない値引き戦争」が始まっていたらしく、それに反対したことへの報復人事のような感じに匂わせている。業界内では「左遷」といわれたらしい。その左遷から7年後には安売りの原資となるリベートを廃止し、安売りに頼らない価値営業に方向転換せざるを得なくなっていたという。


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 高知での営業はとにかく「目標」を明確にしようと「やり遂げれる目標」を社員と詰めていく。その中で「キリンの営業はよくやっている」と言われることを目標に定めていく。つまり、営業マンが名一杯、営業まわりをすることを最初の目的とする。それと集中してまわるために「料飲店」だけに営業先を絞るということだった。その時の営業マンは10人程度でそれだけでも1日に10店舗はまわらないといけなかった。

 ただ、売り上げは、まあ上がることはない。「量販店」の販売が75パーセントを埋めるのにそっちを怠っていても、直接に売り上げは伸びていかないし、逆に下がるような時もあったらしい。なのに何故?というのはすごくて、アンケートを何人にも取って、「ビールをどう選んだのか?」というのに、「居酒屋や料亭などで飲んでいて」という答えが圧倒的に多かったらしい。つまり、「将を射んとする者はまず馬を射よ」で、「料飲店」を抑えることが最終的にはキリンビールのシェアを伸ばすことだと確信したことと、営業先をそれだけ多くまわれば、おのずと営業まわりはうまくなっていく。営業マンの底上げを狙っていたらしい。

 営業先へまわる件数は10倍近くなったらしい。不毛というかまわってもうまくいかない日々が3ヶ月ぐらい続いて、サボる社員がでてくると、その時に初めて怒ったらしい。サボる社員に「嘘とつくのか?」と言い問い詰める。人間的に問い詰められると人は弱い。残業が増えていくし、早出も多くなる。それでも簡単に営業なんて取れない。ただ、営業マンの能力は抜群に上がっていく。

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 すると、変化が表れてくる。つまり、営業マンが仕事が面白くなっていく。まあ、残業をしているわけだし、成績は上がっていなくても手取りはよくなるわけだから、給料を多くもらって嫌だという人はいないだろうし、それなりに営業成績も出てくるわけだから、それもうれしい。著者がしっかりと本社からお金を引っ張ってこれる人だったからできることのようにも思うけど、それで支店が活気づいたわけだから、結果オーライなこともある。

 そして、高知県がビールの味さえも変えていく。ラガービールというのが、コクのあるビールだったのをアサヒのスーパードライのようにキレのあるビールというのでサッパリとした味に変えて不評だったのだけれど、社長が支社まわりをした際に女性社員が「ラガーの味を元にもどしてください。なぜできないのですか」と社員との意見交換の際に発言したらしい。社長が「そういう意見は聞いている。けれど、すぐに会社の方針をぶれさせることはできない」というと、その女子社員は「社長は、お客様に対して卑怯です」と詰め寄ったらしい。

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 その後にすぐにラガービールの味が前に戻ったらしい。そして「高知県のお客様がラガービールの味を変えました」と大々的にキャンペーンをする。「言わせた?」という感じはするけど、そういう仕掛けができるほどにチームワークができているのはすごい。

 チームワークとは何か。それは馴れ合いではなく、ひとりひとりが自立することによってお互いを認め合って生まれるものです。それぞれが相手の役立つことは何かを考えるようになる。「結果のコミュニケーション」を通じて、それぞれが自分の約束に責任をもつようになった。だからこそチームワークが生まれてきたと思います。

 チームワークとスタンドアローン。あい対する言葉がうまく重なりあうときに、シナジーが生まれると著者は言う。高知県のシェアを取り返して、それから四国のシェアとシェア競争を勝ち取っていく。その中で社員の能力も上がるのだけど、社員の意見をすぐに受け入れ、施策(せさく)をする優秀な上司が出来上がっている。飾るポスターが大きいと営業が言えば本社に行ってポスターを小さくしたり、お客が「キリンビールを毎日飲んでいるんだから表彰しろ」と言えば社長に書かせたり、「部下を育てると思いながら、部下にとっていい上司の存在になっている」というのがすごくいいことだなと読んでいて思った。

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