ウスバキトンボが見た夢。
眠りから目覚めたとき、
昨日の自分はもうどこにも存在しないのだ。
忘れたくないことを忘れてしまうのも、
怒りに全てを焼かれてしまっても時の流れだけはいつも無情で
優しくなってくれたことは一度もない。
季節が過ぎるのを悲しんだ。
また来るときには忘れてしまっていることも増えるだろうか。
諦めと、焦燥と、それと……なんだろう。
小匙ひとつぶんの何かが計量スプーンから落ちていくような
ばらばらになった粒をきっと最後まで探しきれないような
床の溝を虫眼鏡で飽きずに見つめていたときのほうが幸せな気もして
自分はまた首をかしげながら夏雲を羨ましそうに見つめる気がした。
世界は輝いているのだろうか?
現実にできそうな夢想を指先で小突いて、
眠るのが下手になったのは人に生れたからだと自分に言い聞かせている。
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