【おしごとエッセイ】わたしとおしごとたち。~居酒屋風味のらーめん~

 面接に行くまでその店の事を詳しく知らなかった、それは今考えればあまりに楽観的過ぎる考えかもしれませんが、それが私の初めての”面接”でした。屋号から勝手に居酒屋だと思い、あー居酒屋いいなあ、やってみたいなあ、とタウンワークから応募。早速面接に来てくれと言われて辿り着いたその先には、立派なラーメン屋さんがありました。あれれ、おかしいぞ?

 そう、私は想定もしていないラーメン屋に突撃面接することになったのです。シミュレーション丸つぶれ。輝向、大慌ての巻。

 接客業の経験、シフトの都合、諸々聞かれましたが矢張り来たのが最後の質問。

 「うちのラーメン、好きですか?」

 そうだよな大事だよな来るよなって思いました、そして私は胸を張って、ええ即答しましたとも。大好きだと!
何せ初めての面接、がたくずれの想定、接することのない大きな大人(大きな大人?)、輝向は萎縮しまくりの緊張しまくり。そこのラーメンを知らないとひとたび言えば追い出されるかぐつぐつ煮詰めて食べられるとでも思っていた勢いです。

 結果はその嘘が功を成したのか(後日聞いたところ、別に知らなければ知らないでよかったのにwとのことでしたが……真実やいかに……)、私は即日採用。なんと実にあっさりと、こってりしたラーメン屋の店員となったのです。が、不安なのはラーメンの味。ラーメンとカレーは大好きで渡り歩いていた私は、それなりに自分としては拘りのある人間でした。もし自分が美味しいと思えないお店だったら、絶対思い切り働けない。オススメとか聞かれても答えられない。脳筋ならぬ脳胃袋な私は、その面接の帰りの足で、流石に同店で食べられる程の精神は持ち合わせていなかったので、近隣店舗を調べて同チェーン店へと向かいました。

 そしてひとくち。はい、え、うまっ!

 ああ、今日から大丈夫だ、と思った瞬間でした。心の底から満足しながら汁までのみ終えたのを覚えています。そう、そのラーメン屋は、今では私にとってラーメン行くぜ!となると上位にあがるラーメン屋となったのです。寧ろ私と言うとそこだと周りが囃し立てるほど(行き過ぎ)。
 ちなみにカラアゲやチャーハンなどのサブメニューも美味しく、一律料金の賄い(どれだけ頼んでも同じ額+給料天引き)でさんざこ食べつくしたのはよい思い出です。
 いつぞやか店長に「エコについて本気出して考えてみよう」と言われ、ラーメンスープを残さずに全て飲めばエコだと思いますと言って怒られたこともあります。え、きついって?イケるイケる!(脳筋)

 因みに業務は私はホール担当、主に洗い場で高速で洗い物を始末したり、お客様のオーダーを聞いたり通したり配膳したりするひとでした。入った当初、あつあつの食洗器から出てくる洗い物を触れなくてもだもだしていた時、先輩に「慣れたら手の皮の方が厚くなって、熱くなくなるよw」なんて謎のダジャレを飛ばされて殺意が沸いたのを覚えています。因みに働いて数カ月後の私が入ってきた後輩へ向けた言葉「食器?ああ今は熱くても慣れるから大丈夫だよ、皮がなんか厚くなって熱くなくなるのw」受け継ぐとこ、そこじゃなくてもよかったろうに……。

 次々と後輩が出来る程には学生バイトながら続けて、それなりに楽しく人間関係を作り、時には店長の車でみんなでお出かけなんて言う陽キャ的集いに参加したこともありました。根っからの陰キャなのに…。
一人吉野家(仕事前の食事がラーメンだと重い)や一人タコス(仕事場近くにあって私が通い始めると潰れた)を覚えたのも、初めて会社の飲み会(未成年の為ノンアルコールでしたが……)と言うものに参加したのもこのときです。

 なかなか体育会系で大変なこともあり、ビールサーバーの交換時に失敗してガスを吸い込み過ぎて喉をやられたり、ビールのおつまみ用の段ボールを持ち上げてぎっくり腰になったり、自分がプライベートで友人を連れて食べに来ているときに誤って「いらっしゃいませー!!!!」と叫んだりと事故も様々ありましたが、自身を人前に出させてくれて、大きく成長させてくれたアルバイトだと思っています。

 今でも時折、そのラーメン屋に足を運ぶことがあります。ただ、今では全て自動化されていて、キムチとかネギなんて取り放題になってるし、食券式で電子マネーが使えたり、お水も全部セルフサービスになっていて、少しだけ寂しく感じたのは内緒です。だって当時は全部人が担っていたのですから。

 かわりゆくもの。時代に敏感だったそのラーメン屋さんも、形を変えて今も存続していく為に、苦労しているんだろうなあとしみじみ思った瞬間でした。

 取り合えずおなかがすいたので、今日の昼食は、勿論ラーメンで!(脳胃袋)

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