おもちゃの桔梗 【#描写遊び】
お盆のお供えの干菓子に、小さなプラスチックの桔梗が付いていた。濃い紫の花は桔梗を模したかたちをしているものの、葉はまったくお粗末で、キャラメルのおまけのような、おもちゃの桔梗。
ところがこの桔梗が、妙に心に引っかかった。
お盆の時期の、終わりの見えない長雨のせいなのか、コロナの蔓延を伝えるニュースに気が滅入っていたからなのか……。
お下がりの干菓子を食べ終えても、なぜか桔梗を捨てられずにいた。
「桔梗の咲く秋がやってくれば、少しずつ、きっと物事が良い方に動いてゆくはず」
そんな希望的観測の象徴として、おもちゃの桔梗を見ていたのかもしれない。
私は桔梗の茎の部分をマスキングテープで貼り付け、台所の柱に掲げた。
ようやく長雨から抜け出せた日。
雲の合間から差すの夏の光に、庭木の枝がぐんと伸びをする。土が熱を帯びて空へ水蒸気を放っている。夏らしい気温に慣れない体が、少しばかり重い。
「あと、少し。この雨のように、きっと抜け出せる日はくるから」
おもちゃの桔梗は変わらず台所で、プラスチックの輝きを放っている。
Emikoさんの「#描写遊び」に参加させていただきました。
難しいけれど楽しい、描写表現は文章を書くことの醍醐味でもありますね!
意識して書いてみると、改めてそれを実感しました。
Emikoさん、ありがとうございました。
神社仏閣をとりまく鎮守の森を守りたいと思っています。 いただいたサポートはその保護への願いをお伝えし、参拝の際、奉納させていただきます。