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のらりくらり、気持ちのうつりかわり。

目覚めたらスマホが表示する時刻は9時50分だった。急がなければゴミ収集車が行ってしまう。寝ぼけ眼をこすりながら部屋中のゴミ箱を集め、45リットルのゴミ袋にガサガサと移し替えていく。寝癖を隠すニット帽を被って、外に出る。幸いにも収集車はまだ来ていないようだった。無事にゴミを出し終えて帰宅し、相方と再び7畳半の中に広がるベッドの海に潜り込む。怠惰で最高な土曜日の予感。しかし、夕方には大学の先輩の結婚パーティに参加する予定があった。場所は飯田橋のカナルカフェだったのだが、相方が靴を購入するために一度吉祥寺に寄ることと、その他溜まっていた洗濯物や皿洗いなど、諸々を鑑みると、そこまでレイジーな時間の使い方を許すわけにはいかなかった。ムクッと起き上がり、家事をする前にシャワーを浴び、昨夜干しておいたバスタオルでわずかな汗と水を拭き取る。ヘアセットをサッと済ませて、ふと開いたインスタグラム のストーリーには、何人かの共通の友人がすでに挙式の様子を挙げていた。手元のわずか数寸サイズの画面いっぱいに広がる青空へ、何色もの風船が舞い上がっていく。


吉祥寺で無事に相方の靴を調達し、次に向かったのは表参道だった。ISSEY
 MIYAKEの店舗に預けていた腕時計の電池・バンド交換が済んだという連絡を受け、受け取りに行くのだ。ついでにパーティ用のセットアップがあれば、試着してみたい気持ちもあったのだが、生憎気になる服のセットアップは在庫切れ。5月1日に再入荷するとのことだった。親切なスタッフさんが取り置きをしてくださるそうで、お言葉に甘えてのセットアップの取り置きをお願いした。


大学の先輩の結婚パーティの中には、本当にここ10年は話していないだろう知人、友人も参加していた。結婚パーティはコンテンツが盛り沢山で、謎解き、クイズ大会、けん玉対決、箸の豆つかみ対決、景品抽選、花火、記念写真撮影などが執り行われた。

少し過去の話をするのだが、新郎新婦はふたりとも同じサークルの先輩である。浪人を経てから入学した自分は、新しい海の隅から隅まで華やかに見えていたのだが、中でもまずいちばんにショックを受けたのが、新婦を初めて見た時だった。

入学式当日。多くのサークルが溢れ出てくる新入生を、それぞれが工夫を凝らした手法で勧誘する日。「新入生、昼食奢ります。」「サークル費たったの●●円」といった内容の看板を掲げる数多の先輩から勧誘を受ける。新入生と年が1つ違うという事実にまだ慣れない上、数々の陽キャラに絡まれて、肩身の狭い思いをしていた自分が扉を叩いたのは、高校時代の友人が1年早く入り、すでに羽振りを効かせているという国際交流のサークルだった。その友人と一緒にサークルの新歓部屋に入ると、ひとりの先輩を紹介された。聞けば自分と同じ経済学部でその人は3年次だと言う。その先輩は自分の座っていた隣の席に腰掛けると、自分が開いていた履修資料を覗きながら、学部授業の履修について、ラクタン(履修が楽な単位)がどうとか、この先生が良いとか、いろいろと丁寧に教えてくれた。しかし、内容が頭に入って来るわけもなく、大学ではこんな芸能人みたいな人がこんなに近くにいるものなのかと目を丸くせざるを得なかった。「1つ年上の先輩で、めちゃくちゃ可愛い人。」その人物こそ、今回の新婦だった。


その後季節が春から夏に変わり、サークルの夏合宿に参加する頃には、その春の衝撃が、ほとんど恋に変わっていた。サークルで仲良くなった当時2年次の女友達(先輩であることを忘れてはいけないのだが)と、お互いの片思いについて語った記憶が、頭の片隅にぼんやりと残っている。そして当時の合宿の同じ班で、リーダーだった先輩が今回の新郎である。当時すでにふたりは付き合っていたらしく、その事実を夏合宿で知るという、なんとも滑稽かつ奇怪な展開に、当時の自分を笑わざるを得ない。


今回の主役のふたりは当時よりもさらに格好良く、可愛く、チャーミングな夫婦として目の前にいた。結局は数ヶ月と持たなかった片思いで、その後大学という無限の選択肢と情報が溢れる大海を泳いだ末、別の人と割と大きめな恋をすることになった。


恋焦がれた大学当初の初々しい当時のきもちは、今やすっかり憧れのきもちとなっていた。



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