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提唱者がゆく先。

前日の夜から決めていた。

前日の午後。満席でフラれてしまったカフェバー、「No.」。今日は早めに行き、そこで写真の整理をして、「場所はいつも旅先だった」と「高村光太郎詩集」を読み返す。

自分のしたいことやりたいことに対して、自分の体は正直だ。アラームを設定した朝の7時の15分前に自然と目覚めた。前日のうちにリスト化していた1日を気持ちよくスタートするために朝やることを見返す。バスタオルの洗濯と皿洗い。トーストと目玉焼きとベーコン、そしてコーヒーを作って食事。シャンプー。昨日は高校の友人にかけてもらったパーマが落ちないよう、頭を洗っていなかったから、ここぞとばかりに頭をワシャワシャと泡立てながら洗い上げる。さっぱりとした頭髪にグリースを揉み込み、ドライヤーで形を整えていく。

洗い上がったバスタオルを干した後は朝ご飯の準備だ。まずはフライパンに油を引く。油が全体に行き渡るようにフライパンを持ち上げたとき、こうして時間がある朝に料理をするのはいつぶりだろうと我に返った。卵の殻も片手ですんなり割れていた前と比べて、少しもたついていた。

目玉焼きとベーコンを尻目に、トースターでバターを塗った食パンを2枚焼いておく。ついでにコーヒーを淹れるためのお湯も準備する。元来マルチタスクが苦手な自分だか、この日は3つの世界線をうまく行き来できた。目玉焼きの焼き具合も、感覚を忘れていたにしては上出来だった。とても簡易な食事だが、相方に手料理を食べてもらったのはいつぶりだろう。最近はまた忙しさにかまけて、こういう時間を取ることを忘れていたことに気がつく。



実家に戻る相方を見送った後、調理器具とお皿、カトラリーを追加で洗う。さて、いよいよ「No.」へ向かう時だ。マルニ×ポーターのバッグに本2冊とノートPC、記録用のノートを入れて家を出た。

「No.」はすでに客が何名か入っており、カウンターは満席だった。テーブル席に荷物を置き、アイスカフェラテを注文した後、まずは心と少し火照った体を冷ますべく、松浦弥太郎さんの「場所はいつも旅先だった」を読み返す。1エピソード分を読み終え、ふうと一息つくとアイスカフェラテが目の前に運ばれてきた。BOOK AND SONSの栞を本に挟んで、今度はノートPCを取り出す。



数週間前から、自分のお気に入りの写真を選定しているのだが、これがまたかなり時間を要する作業だ。クラウドに詰め込まれた、景色を人を、そしてその色彩を映し出すための、膨大な電子データをパラパラと確認しながら、自分が良いと思ったものを別のフォルダに仕分けしていく。仕分けしていくうちに当時切り取った瞬間の感情が押し寄せてくるものだから、物思いに更けてしまいがちな作業。さらには途中、昔レタッチした写真を見て、今ならこうレタッチするのに・・と思いながらついついレタッチし直してしまうから、余計に時間がかかる。


正午を越えたあたりから店内が混み始め、店の外で並ぶ人も出てきた頃、荷物を纏めながら次の目的地を考えていた。せっかく早起きしてカフェに来たのだから、他のカフェにも行こう。そう思い、電車に乗って、隣駅にあるnephewへと向かった。

nephewではコールドブリューとピスタチオアイスをトッピングしたレモンパウンドケーキを頼み、中2階の席で過ごすことにした。少ししか移動していないにも関わらず、上半身から汗が吹き出てくる。9月も中旬だというのに、夏の亡霊はまだまだとこの地に居座っているらしい。先日遊んだ桃鉄に出てくるキングボンビーのような姿形を想像しながら、「早く涼しくなってくれ」と口元まで出かけたところで我に返る。無心でトッピングのピスタチオアイスを頬張りながら、汗が引いていくのを待った。

途中、休憩がてら高村光太郎詩集に手に取ったり、レタッチし直した当時の写真を友人に送ったりと、アナログとデジタルの反復横飛びを繰り返すものだから、集中力は徐々に落ち始める。スタッフさんに「そろそろお時間なので」と声をかけてもらった時、ちょうど写真の選定も一通り終わったタイミングだった。

さてそろそろ帰ろうか。自分でもそう思っていたが、左胸の操縦室に居座る小さき住人が「今日をもっと楽しめ。新しい体験をしろ。」と言って聞かなかったらしい。残暑、というより強い日照りが残る猛暑の午後2時すぎに、ずっと気になっていた代々木上原の「ナドヤノカッテ」に拠点を移した自分には今でも驚きを禁じ得ない。

「ナドヤノカッテ」は古民家を活用した週末限定のカフェだ。前からその存在は知っていて気になっていたが、なかなかこのエリアに出向くことがなく、行けずじまいの週末を過ごす日々だった。軒先の庭に席がベンチや椅子があり、その一角に荷物を下ろした。店のオーダー受付口に並ぶと、スタッフさんが豆の種類と特徴を1つ1つ丁寧に教えてくれた。コロンビアなどよく聞く産地もあったが、中には中国の豆など珍しいものもあった。


今回、初めて出会った豆のアイスコーヒーを注文した。それはロドリゴ サンチェスのパープルカトゥーラという、クエン酸を加えて発酵させた珍しい豆だと言う。確かに柑橘系を思わせるものの、ライムのように爽やかな中にミルクのような芳醇さがあるような、これまで香ったことのない珍しい香りだった。スタッフさんと話していて、言われてみればコーヒー豆も歴とした農作物であるということに気づく。収穫する年、その時の環境によって味に違いが出るのだ。初めて訪れた場所だったので、当然といって仕舞えばそれまでなのだが、今回のカフェ巡りでは1番の収穫だったように思う。


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